プールに行こう◆Before episode◆


「あさって千石さんと一緒にプールに行くんだ〜♪」

 そんな…ノロケ話とも取れそうな話を親友から聞いたのは、彼女が約束したという日の二日前だった。電話の向こうの声は……まぁらしいと言えばらしいけど、いたって普通の口調。二人での初めてのプールデートだっていうのに、別段浮かれた様子も感じられない事に呆れて言葉も見当たらない。

「…那美ちゃん、聞いてる?」

「聞いてるわよ!まったく…もえったら事の重大さが分かってるの?」

「へっ?」

 私の質問に、案の定…不思議そうな返事。まったくこの子は…。

「初めてっ!!いい?初めてのプールなのよ!?照れたり緊張したり…ってコト、アナタには無いわけ?」

「なんで?すっごく楽しみだよ〜♪」

「ハァ………もぅ!」

 分かってた…分かっていたわ。この娘の、救いようの無い天然野生児っぷりくらい…。聞くまでもなかったわよね。

「どうせアナタ、水着だって学校指定のでもいっか!とか甘い事考えてるんでしょ?」

「うん。だってもう持ってるのに新しいのを買うのも何か勿体ないし…」

「あ〜もぅっ!!分かってないっ!!もえは何も分かってないよ!!」

 あまりの乙女度の低さに興奮してしまい、思わず大きな声で叫んでいた。

「那美ちゃん?どうしたの?」

「あのねぇ!初めてのプールデートと言えば女の子にとって一大決心の要る重要イベントなのよ?『水着はどんなの着よう?』とか、『お手入れは念入りにしなくちゃ!』とか、とにかく気を遣って……でもついつい浮かれちゃうような、そんな素敵なイベントだよ?なのに何よ、アナタの態度!どう考えたって『家の裏の川に泳ぎに行こう〜』程度にしか考えてないでしょ?」

 激昂してまくしたてる。でも相手の反応は案の定…

「えっ?どう違うの?」

 千石さんの苦悩が偲ばれてならないわ…。付き合いだしてから、最近妙に女の子らしくなってきてるかと思えば…肝心な所でなにも変わってなかったなんて。

「……………行くわよ」

「へ?ドコに?」

「明日一緒に水着買いに行くの!!せっかくの初プールデートだもの。スクール水着のままで終わらせないんだからっ!!」

「えぇえぇぇ〜〜〜っ!?」

 そう息まいて、私は無理矢理親友に約束を取り付けた。余計なお節介かもだったけど、乙女としてこんな状況…黙って見てらんないもの!



 次の日私は宣言通り渋るもえを誘い出して街へ出掛けた。時期的に水着の購入は難しいかな?と思ったけど、予想より種類が豊富で良かった。お値段もセール品がメインだから比較的リーズナブルだしね♪

「もえは肌も健康的だから、明るい色の方が似合いそうね。どう?着てみた?」

「那美ちゃぁ〜ん…」

「どっ…どうしたの?」

 試着室の中から泣きそうな声を出している親友に、許可を得て中を覗く。明るい黄色のチューブトップのビキニがよく似合ってた。

「サイズも色もピッタリじゃないの。なにをそんな声出す必要があるのよ?」

「ここぉ〜…」

 そう言って、自分の二の腕を指差す。よく見れば…くっきりと分かる半袖のあと。

「あらら……ここ半袖焼けしちゃったんだ?日焼け止めは塗ってなかったの?」

「だって…必要無いと思ったから…」

「アハハ……もえだもんね」

 いくら日焼け止めとはいえ一応化粧品の類だもの。そういうのに無頓着な彼女が、大汗をかく部活で小マメに付けるハズないか…。

「那美ちゃんが言ってた準備って、こういう意味もあったんだ…。どうしよう、今更隠すことも出来ないよ〜…恥ずかしい…」

 チラリと顔を覗かせた乙女心が、なんだか妙に可愛く見える。

「………大丈夫じゃない?」

「えっ…?」

「他の誰でもない、同じテニスプレイヤーの千石さんが相手だもの。そんな程度の理由でもえの事…嫌いになったりなんて多分しないと思うけどなぁ」

「そ…そうかなぁ〜?」

「それくらいで嫌いになったりするんなら、もえみたいに面倒な娘、女好きな千石さんが相手にしないわよ!」

「那美ちゃんヒドイ〜ッ!!」

「……フフッ」

 ちょこっとからかってあげれば、案の定…素直な彼女らしい反応がかえってくる。

「んで、その水着でOK?他のも選ぶけど…どお?」

「あ!うん!大丈夫。すっごく可愛いよ」

「良かった。じゃあ買っちゃいましょ」

「うん!」

 ともかく当初の目的は果たせたし、何だかスッキリした気分で私達は店を出た。

「明日は頑張ってね、もえ!」

「うん!!今日はありがとう那美ちゃん♪」

 その足で別れて、私は跳ねるもえの背中を見送った。我ながら素晴らしい働きだったと思う。ホント、世話の焼ける親友だわ!



「これでもし振られるような事があったら…ただじゃ済まさないわよ、千石さん?」

 頭の片隅にくしゃみをする彼を思い浮かべながら、私は夕暮れの道を帰っていった。



* * * * *

宣言通りの前日談です。

ウチの巴ちゃん……恥ずかしがるポイントが微妙におかしいですよね。でもいいんです。何せ天然野生児ですから(笑)

那美ちゃんの位置付けがなんか勘違いな気がしてますが、『女の子の親友=手のかかる娘を持った親の気持ちになってる』てシチュが大好きなもので、こんな感じに収まってたりします(えぇ〜?)

余談ですけど…我が家の巴ちゃんのあだ名は『もえ』です。『モエりん』だと何かあまりにアレだったもので…(苦笑)


2007/9/26


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