プールに行こう


 ───あさっての日曜日、一緒にプールに行きませんか?



 彼女からこんなお誘いの電話が来たのは、夏休みもとっくに終わって新学期に突入した九月の二週目の金曜日だった。訳を聞けば、同居してる越前くんの従姉妹のお姉さんから無料券を貰ったんだとか。ずっと踏み出せずにいたチャンスが向こうからやってきた…!!思いがけない幸運に、ついつい顔が緩む。

 男の俺から女の子をプールに誘う…ってのは、もの凄い勇気が要るもので。今年は二人で迎える初めての夏だし、何だかんだ理由を付けて誘おうと思っていたんだけど…下心を見透かされるのが怖くて、結局誘えず終いになっていたのだ。

 それが向こうから誘ってくれるだなんて!これ以上のラッキーは無いよね。二つ返事でOKを出して、俺はソワソワと待ちきれない二日後に想いを馳せた。



「お待たせしました千石さんっ」

 弾けるような元気な声に、逆方向を向いていた俺はパッとそちらに顔をやる。予想通り…ひまわりみたいな笑顔の巴ちゃんは、水着の上から薄い白のパーカーを羽織って更衣室から飛び出してきた。

「だいじょうぶだよ〜。俺もさっき出てきたとこだからねっ」

 なんて、いかにも恋人らしい会話。彼女もまんざらではない様子で、少し照れながらも微笑んでくれる。

「思った以上に空いてるね〜」

「この時期ですからね。そんなに芋洗いにはなりませんよ!」

 夏休みの期間中よりも、むしろゆったりと泳げるであろう状況に、俺は心底自分の幸運に感謝した。

「そういえば巴ちゃん、何でパーカーなんて着てるんだい?」

「ぅえっ…!?」

 さっきから気になっていたコトを尋ねる。巴ちゃんは見る間に顔を真っ赤にしながら、うつむいてしまった。

「…いえ、その…ちょっと…」

 ………ハッ!!これって、もしかしなくてもセクハラ発言だったかな?俺は慌てて質問を撤回する。

「あ、いやいやいや……余計な事聞いたね。メンゴ!」

「…………」

 あぁ〜っ!!完全にハズしたっ!!巴ちゃん…気を悪くしちゃったかな?黙り続けている。俺もかける言葉を見つけられず二人気まずい沈黙の中に潜ってしまう。

「……千石さん?」

 しばらくの間二人会話も無く佇んで、いい加減焦れ始めた頃合いに…先に言葉を発してくれたのは巴ちゃんの方だった。

「ん?なんだい?」

 何を言われるか…内心ドキドキしながら、それでも平静を装って返事をする。

「……ぜーったい笑わないで下さいね?」

「へっ…?」

 予想外の巴ちゃんの言葉に、何のことだか理解出来ずに変な返事をしてしまった。

「コレ…」

 スルリと肩を抜けたパーカーの下から飛び出したのは…眩しい黄色のビキニ。

「ッ……!!」

 巴ちゃんの事だから、てっきり学校指定の水着とかを着てくるとばかり思ってた俺は、あまりの可愛らしさに言葉を失っていた。

「や…やっぱりおかしいですよね…」

「何でっ!?そんな事全然無いよ!!可愛いっ!!すごく似合ってるよ!!」

「え?…あ、水着ですか?」

「ん?違うの?」

 あれ?何だか会話が噛み合ってない…?

「…本当は学校の水着で来ようと思ってたんですけど、那美ちゃんから『初めてのプールデートにそんな水着じゃ絶対ダメッ!!』って言われて一緒に水着買いに行ったんですよ」

 那美ちゃん…グッジョブ!!感謝します!!

「じゃなくて!!…千石さん、気にならないんですか?」

「何が?」

「ココ…腕のとこ。部活ですっかり半袖部分から下だけ見事に日焼けちゃって…見られるのすっごく恥ずかしかったんですよ〜!!」

「なぁんだ!そんな事か!」

 ケロッとそう答えると、今度は巴ちゃんの方が面白い顔をした。

「だってさ、ソレって夏休みの間巴ちゃんが必死に部活を頑張ったって証じゃん!別に、恥ずかしがるような事じゃないって」

「………エヘヘ、良かったです。千石さんに笑われるのが一番イヤだったから」

「そんな事しないよぉ!俺、紳士だから」

「プッ…自分で言っちゃうんですか?」

「うん、もっちろん!」

 やっと、いつもの二人のペースに戻れた。何だか嬉しくて気持ちがはしゃいでくる。

「じゃあ、早速泳ぎに行こうか!半袖焼けが隠れちゃう位に遊びまくろうよ」

「………ハイッ!!」

 巴ちゃんの右手を取って走り出す。近くの監視員さんから怒られたけど、このワクワクする気持ちを抑えきれなかった。俺の夏は…今始まったんだから、ネ☆



* * * * *

清巴第二弾。
激しく季節はずれなプールのお話です(苦笑)

ウチのヘタレ千石っくんは色々考えた挙句、自分からプールに誘えなかったという…嗚呼悲しいかな男の煩悩(笑)

私の中の清巴における千石っくんコンセプトは相変わらず『ヘタレだけど、巴ちゃんの前では精一杯強がってカッコイイ男を演じる』て感じなので、この位がちょうどいいんじゃないかと思います(意味不明ι)


那美ちゃんと水着を選びに行くエピソードも面白そうなので、機会と気力があったら(笑)書いてみたいなぁ…♪


2007/9/8


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -