Sleeping Princess


「こんな所で寝てると風邪を引いちゃうよ?仔猫ちゃん」

 いつもの調子で軽口を交えながら、俺は目の前ですやすやと寝息を立てる女の子に問い掛ける。無防備なのは嬉しい限りだ。でも…出来れば君の寝顔より笑顔を見つめたいものじゃないか。

「お〜い?巴ちゃ〜ん?」

 …が、反応は無い。余程疲れてるのかな?ふと気が付けば…ひと休みしていた木陰で、その幹に寄りかかったまま彼女は眠ってた。俺の言葉にも、気持ち微笑みを浮かべただけで、一向に目覚める様子は無い。

「そんなに可愛い寝顔を見せてくれちゃうと………襲っちゃうよ?」

「うぅ〜ん……にゅ…ぅ…」

 最終兵器のヒトコト。さすがに身の危険を感じて起きてくれるだろうと思いきや、予想に反して彼女はムニャムニャと寝言を言っただけで全然目覚めてくれなかった。

「………うぅ…」

 その空気にたじろぐ。冗談で口にした己れの言葉を少し後悔する。意識をすればする程に、理性と欲望の葛藤に苦しむ自分がいた。だって…目の前の君は、あまりにも可愛くて無防備で…愛しかったから。

「まったく…敵わないな、君には」

 ため息ひとつ、彼女の前にしゃがみ込むのをやめて、隣に並んで座ってみた。これ以上こんな姿を見つめていたら……本気で理性が根負けしちゃいそうだったからね。

 座ってみてなるほど、と気付く。爽やかな風と木漏れ陽が心地よくって、彼女じゃないけど思わず眠ってしまいそうだった。

「ま、いっか…」

 見方を変えれば、気を許してもらえた役得だもんな。少し寂しいけど、この光栄な時を噛みしめる事にした。

「………千石さん…」

「ん?」

 ふと呼ばれた気がして彼女の方を向くと、けれどもやっぱり君はまだ眠っていた。寝言…だったのかな?

「千石さんの……エッチ……」

「えぇぇっ!?」

 あまりに突然の誹謗に、慌てて飛び退く。いやいや…確かにそう言われても仕方ない事は考えていましたけどっ!…と言い訳めいたセリフを口にしようとしたけども、よくよく見れば彼女はまだ眠ったままだった。

「なんだ…寝言かぁ…」

 ホッとため息を吐く。まったくこの娘は…分かってやってるのかな?予想外の焦りに、心臓のドキドキがなかなか止まなかった。

「………ハハハッ」

 おかしさが、急に込み上げてきた。本当…彼女には敵わないなぁ。

「そんな所も…全部大好きなんだけどね、巴ちゃん…」

 許可を貰ってなかったので、少し控え目におでこにキスをした。そんな可愛い寝顔に、堪えきれない程の『好き』が溢れてきた気がした……。




「………さん?千石さん?」

「…ん…?」

 自分を呼ぶ声に目を開ける。知らない内に眠ってたのか…ぼんやりした頭でそう考えていると、真っ先に視界に飛び込んできたのは大好きな君のアップの顔だった。

「うわぁぁあっ!!」

「こんな所で寝てたら風邪引いちゃいますよ…なんて。実は私もいつの間にか寝ちゃってたんですけどね」

 グイッと無理に引き寄せられた意識が戻る前にこの刺激…ビックリし過ぎて、おかしくなりそうだったよ…まったく。

「もう千石さんってば……無防備に寝てるんですもん。襲っちゃおうかと思いましたよ」

「へっ?」

 ニヤッ、とイタズラな瞳が笑う。予想だにしない言葉に、情けない声が漏れた。

「だって…千石さんの寝顔が、すっごく綺麗だったんですもん!」

 そんな俺の気持ちをよそに、君はサラッとこんな嬉しい言葉を俺にくれる。まったく…とんでもない娘を好きになっちゃったのかもしれないな。

「な〜んだ…それなら本当に襲ってくれれば良かったのになぁ」

「〜〜〜〜ッッ!!」

 自分で言った言葉のクセに、こう返されると真っ赤になって黙り込んでしまった。

「アッハハハ!可愛いなぁ、巴ちゃんは」

「もぅっ!!千石さんのいじわる!!」

 ふくれっ面もまた愛しい。くるくると変化する表情が、彼女らしくて。

「メンゴ、メンゴ!」



 どんな時でも、アッサリと元気をくれる。どんな時でも、こうして俺を嬉しくさせる。やっぱり君は俺のラッキーの女神様だね!



* * * * *

清巴第一弾。無駄に長いです(笑)
私の中の千石っくんのイメージは、女の子の前だと余裕ぶってしまうのに、その実は内心いっぱいいっぱいな感じです。あまり感情に流されるタイプじゃないだけに、この葛藤は可哀想なくらい可愛いと思うんですが…どうですかね?

それでも女の子の前で見せる余裕がすっごく大人でカッコイイ…。そんな千石っくんが、そんな千石っくんだから好きなのかもです♪(笑)


2007/5/27


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