Dream my sister


 暖かな、春の陽射しに誘われて見た夢は、どこか見覚えがある様で、突拍子も無い様な…現実と妄想の隙間にある話───



「………あれ?『巴』…───?」

 目が覚めると、今までいた彼女はいない。その代わり公園に響く元気な子供達の声と、すぐ目の前の巴ちゃんの満面の笑顔。

「あ、幸村さん起きました?」

 微かに額を撫でる彼女の毛先が、しきりに触れてくすぐったい…。嬉しそうだけれど、どこかイタズラっ子の様な顔をしてる彼女を確認して、自分が膝枕をされていたのだと…ようやく真っ当な意識が戻ってきた。

「うっ………わ、俺寝てたんだ」

 柔らかな膝の感触が心地よく感じていた事が何だか逆に恥ずかしく思えてきて、慌てて体を起こそうとしたのだけれど…

 ───ゴンッ!!

「んぎゃっ!!」

「いっ……つ。あ、ゴメンッ!!」

 当然、覗き込んだ姿勢で俺の顔を見ていた彼女のおでこに、思いきりよく自分のそれをぶつけてしまった。

「うぃ〜…こちらこそ、スミマセン〜…」

 当たった場所を見てみれば、見事真っ赤に染まった丸い跡。

「ゴメンよ、痛かっただろう?」

 そっと撫でてやると、少しはにかみながらも元気に返ってくる否定の言葉。

「全然ですっ!!石頭にはかかと落としの次に自信がありますから!」

「…ぷっ」

 彼女らしい自慢のタネに、聞いていた俺もついつい吹き出しつつも、涙目の額をそっと撫でてあげた。

「…どの位寝てた?」

「一時間位です。今日は暖かいですしね〜。ホント、お昼寝日和ですよね」

 ニコニコと返事する巴ちゃんに、それでも申し訳無さが募る。

「俺から誘ったのに…悪かったね」

「いいえっ!幸村さんの寝顔も見れて、逆に得した気分です♪」

「ハハ…出来れば忘れてほしいなぁ…」


 数ヶ月ぶりの、一緒の外出。お互い何かと忙しいせいか、なかなか時間が取れなくて…ようやく空きを見つけた日曜日。

 彼女を誘って流行りの映画を見に行ったは良いけど、予想以上にありがちな展開尽くしのラブコメに眠気も募り、気付けば映画館を出てからソフトクリームを食べた事までしか記憶が無い体たらく。

「ソフト、美味しかったですね〜」

 そんな午前中を反芻している時に、不意に重なった同じシーン。思わず巴ちゃんの方を向く。

「ストロベリーも捨てがたかったですけど…やっぱりバニラは王道ですよね!」

 巴ちゃんはバニラで、俺はストロベリー。悩む彼女に、ひと口分けてあげられればな、と選んだフレーバー。

「喜んでもらえて何より。俺もひと口分けてもらえば良かったなぁ、王道の味」

「あっ…そういえば、ウッカリ誘惑に負けて口を付けちゃったから分けられなくて…」

「食べ掛けでも別に気にしないのに」

 俺のセリフにうっ…と言葉を詰まらせて、途端に真っ赤になって反論する。

「ダメです!!いろいろ、何かダメです!!」

「アハハハッ」

 この反応が可愛くて、無意識にからかってしまうのが悔しい。

「それにしても…良い天気だね」

「ですね…。幸村さんが眠くなっちゃうのも分かります」

「いつもと逆…だよね。大概は、巴ちゃんの寝顔を見てる気がする」

「うぅ…スミマセン…」

「最初に話した時も…そうだったよね」

 そう口にして、思い出すあの瞬間。確か…あの日もこんな穏やかな陽気だったなと。

「…そうだ。あの時も、確かこの公園だったよね。熟睡していた君を放っておけなくて、すごく悩んだ覚えがある」

「私は……起きたら幸村さんに抱きついててビックリしました」

「夢を見て、寝惚けていたよね?」

「すっごくリアルだったんですよ!夢の中の延長だって勘違いする位」

「『お兄ちゃんっ!!』だよね、確か」

「うっ…忘れてください〜!!」

 ちょっとだけ…意地悪な顔をして言うと、必死に懇願された。

「不思議な事も…あるなぁ…」

「えっ?」

「さっき…同じ様な夢を見ていたんだ」

 目の前の巴ちゃんが、夢の彼女とダブって見える。

「夢の中の俺は妹が可愛くて仕方なくてね。でも、ウチの妹とは顔も性格も別人だった」

「もしかして…?」

「うん、そう。君が妹で、俺が兄。やっぱりその夢でも…真田が君の婚約者だったなぁ」

 異国の服を着た、俺達の姿が蘇る。

「でもね…俺は本当は妹が可愛くて可愛くて仕方なくて、心の中では真田にすら渡したくないって思っていたんだ」

 出来る事なら…二人で手を取って、誰にも知られない場所へと逃げ出したかった程に。

「夢なのにね…。そんな設定にすら抗ったりしていたのが印象的だったなぁ」

「嘘みたい…」

「嘘じゃないよ?なら証明してあげる」

「えっ!?あ…ッ……───」

 不意討ち気味に、その唇にキスをした。

 信じてもらえなかった事が、少しだけ妙に悔しかったのかもしれない。

「っ……ふぅ…」

「これでも、まだ信じられないかな?」

 ダメ押しの、問い返しを。巴ちゃんからの返事は…真っ赤な顔で横に振られた首。

「違うんです!違うんですっ!!嘘みたいっていうのは…同じ夢を幸村さんも見てたって事が嘘みたいって思ったというか…」

「なんだ、良かった。じゃあキス分得した…かな?」

「うぅぅ…」

 巴ちゃんの言う通り、本当に不思議な事もあるものだとつくづく感じる。きっと彼女と一緒にいたから余計になんだろう。

「よし!何だかバッチリ目も覚めた事だし、この一時間分の埋め合わせにもう少しだけ…時間をくれるかな?」

「───ハイッ!」

 元気いっぱいの返事に笑顔で手を取って、俺達は公園を後にした。この暖かな陽気は、きっと嬉しい事を運んできてくれる。そんな予感に胸を踊らせながら…。



* * * * *

もはや毎年恒例となりました、幸村様誕生日記念の幸村×巴小説のお届けです(笑)

こういう縛りでも設けとかないと、全然火が付かないので…あながち縛りアリも良いかもしれんですね。普段から書かなさ過ぎますι


何気に一作目のアンサーの様なストーリーに…イメージだけは、織り混ぜてみたり。何かとりとめの無い話になってしまいましたが、案外こういうのも嫌いじゃないです。

幸村とのカップリング前提だと、ラシュドリのあの夢の設定に不満が残るので、こうして幸村側の主張を入れたくなった次第です。



ひとまず最初の裏目標『巴ちゃんの膝枕』はクリアしたので自分的には満足☆(爆笑)


2010/3/5


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