バースデープレゼント
「あのっ、千石さんっ!お誕生日おめでとうございますっ!!」
そう言って、巴ちゃんは後ろ手に隠してた大きな包みを俺に差し出した。その予想外の行為に、思わず面食らってしまう。
「えっ…あれれっ?今日誕生日だって言ってなかったよね?」
「へっへぇ〜♪この間、コッソリ壇くんから聞いちゃったんです!だって、サプライズの方がビックリさせられると思って」
ピッカピカの、満面の笑顔。眩しくてつい苦笑い。本当は、ワザと教えなかったんだ…なんて考えてた後ろめたさが顔に出る。
「ハハハ…ありがとう。すごく嬉しいよ」
巴ちゃんに返すように、釣られてニッコリ笑ってみた。彼女はただ嬉しそうに、俺への贈り物を手渡してくれる。
「早速開けてもいい?」
「モチロンですっ♪」
リボンを解き、綺麗なストライプの包みを破かないようにそっと開けると、中から顔を覗かせたのは…落ち着いた深緑のマフラー。
「わ…あったかそうだね」
広げてみると、ゆったりと首に巻くのにもちょうど良い長さ。
「モスグリーンの毛糸、千石さんに似合うと思って。これからの時期もっと寒くなりますしね!ただ……」
「ただ?」
「重いんです、すっごく」
言われて首に巻いてみると、なるほど…。確かに何だか肩にしっかり乗っかる感じ。
「那美ちゃんに教わって、初めて編み物してみたんですけど…」
「えっ…じゃあこれ手編みなのっ!?」
更に続いたサプライズ。嬉しさのあまり、不覚にも口元が緩んだ。
「はぁ…まぁ一応。でも那美ちゃんには毛糸4、5玉あれば充分だって言われてたんですけど、どう頑張っても長さ足りなくて9玉半も使っちゃって…気付いたら、こんな重さになっちゃいました…」
編み物の詳しい事はよく分からないけど…確かに市販のより幾分カッチリしてる。
「別にこの位大丈夫だよ?」
「それにはじっこがキュッて…。どうしてもキュッって反って折れるんです」
ああ……言われてみれば、そうなのかも。半分に折らなくても、勝手に二つ折りになる勢いだ。
「那美ちゃんには『目がキツいのよ!』って怒られたんですけど…ほどいて編み直してる時間が無くて…ゴメンナサイ!!」
そう謝りながら、すっかりしょんぼり顔の巴ちゃんの頭を優しく撫でてあげる。
「まさか祝ってもらえるとは思ってなかった誕生日を、それも…手編みのマフラー付きでお祝いしてもらえるだなんて、こんなスゴいラッキーは無いよ!本当にありがとう」
そんな俺の言葉に、けれど巴ちゃんは不満そう。
「千石さんとお付き合いしてから、初めての誕生日だったのに…もっとちゃんとお祝いをしてみたかったです」
口を尖らせながら呟く表情も可愛いなぁ…と思いながらも、密かに練っていた計画へと近付き始めた展開にニヤリとする。
「俺が良い…って言っても、巴ちゃんは納得しなそうだね?」
「はい…」
「じゃあさ、誕生日特権!ひとつだけ、俺のワガママ聞いてもらってもいい?」
突然の提案に、巴ちゃんは目をパチクリ。
「あ……えと、ハイッ!私で出来る事なら、何でも言って下さい!」
「ホントッ!?やったっ!!ラッキー☆大丈夫。巴ちゃんにしか出来ない事だから!」
ニッカニカでそう答えると、ホッとした顔を覗かせながらも何を言われるのか解らずにドキドキ…ぐるぐる表情を変えながら、俺の出すお願いを待っている。そんな巴ちゃんが…やっぱりキュンとくる程に可愛い。
「あのね」
「どっ………どうぞ!!」
ガッチガチに固まった巴ちゃんは、必死の形相で…そんな緊張をほぐしてあげようと、俺は伸ばした手をそっと彼女の頭にやる。
「あのね、欲しいんだ」
「へっ?」
「ほっぺでも、おでこでもなく…ココに」
そう言って逆の手の人差し指で自分の唇を指す。その言葉に、巴ちゃんはみるみる頬を紅く染めてゆく。
「えええぇっ……そ、それって…つまり」
「そ。キスしてほしいな〜…って」
それも、君からね…と付け足して。
「………ダメ?」
「うっ…い……あ…イイエッ!!」
極めつけの、おねだり。ちょっと悲しげな目で見つめれば、混乱の極みの様な巴ちゃんは焦りのあまり、判断も覚束ないままで首を横に振っていた。
「………なぁ〜んてね!冗談だよっ」
「はれっ!?」
やっぱり…良くないよね。これじゃ彼女に無理強いさせてるじゃないか。
「千石さん…?」
真っ直ぐな巴ちゃんの瞳をそのまんま直視するのが心苦しくて、俺はとうとうその思惑の全てを白状する覚悟を決めた。
「ゴメンね…。本当は、君にワザと誕生日を黙っていたんだ」
「えっ…」
一気に不安そうな顔をする彼女。それは、もう予測済み。だから…すぐ続けて話す。
「初めてのキスは君からがいいな…なんて、密かに思ってたんだ」
自分で言っときながら、思わず顔が火照るのを感じる。
「でも…切り出す機会が無くてね。それで、誕生日を知らなければ…きっとプレゼントを用意出来ない君に、おねだりが出来るんじゃないかな?って、そんな姑息なコトを考えてました。本当にスミマセン!」
ズルくて、卑怯で、でも…それを自覚していても、なお本気だったから…。心の底から謝った。
「千石さんって…」
深く下げた頭に任せて、顔に集まっていた血が涙に変わりそうになった頃、巴ちゃんがポツリと呟いた。
「ん…?」
その続きが気になって顔を上げれば…軽蔑されると思ってた君はニッコリ笑顔。
「意外とロマンチストなんですね!」
「へっ…?」
「千石さん、目〜閉じて下さい☆」
巴ちゃんに流されるままに従うと、つぎの瞬間…首に回された腕とともに、不意に唇に触れた彼女の体温。
「ッ…」
何の躊躇いも無くくれた───はじめてのキス。
「へへっ…」
離れた温もりと、照れ臭そうな彼女の声を合図に目を開ければ、思った通りの照れ笑いな巴ちゃんの見上げる表情がそこに。
「ホントは、マフラーが間に合わない!って思った時から考えてたんです」
「えっ…?」
「もうひとつ、プレゼントをするならコレがいいかな?って。でも…」
モジモジと、俺の腕の中で口ごもるキミ。問い返せば、少し苦笑いでこう続けた。
「これじゃあ、私が千石さんにプレゼントを貰っちゃうみたいでダメかな〜?って思って却下したんです」
「………ハ、ハハ」
もうどうしてあげようかっ!この腕の中の可愛い君に掛ける言葉が出てこなくて、俺は目一杯巴ちゃんを抱き締めていた。
「むきゅっ!!」
一瞬、苦しそうな声は上げたけれど、首に絡まったままの腕にそっと力が込められたのを肯定と受け取って、そのまましばらく……彼女と体温を分け合ってみる。
「………ありがとう。今までで一番、最高の誕生日プレゼント貰ったよ」
耳元でそっと囁くと、真っ赤なほっぺたを更に紅く染めて、嬉しそうに頷いた。そんな巴ちゃんが…我慢出来ないくらい可愛くて、今度は俺からそっとキスを返してみた。
「…ンッ……」
再び触れた彼女の唇はとろける位甘くて…何だか我を忘れそうになる。
「しぇっ…しぇんごくしゃん〜…」
危うく理性を手離しそうになったころに、場の雰囲気をブチ壊す巴ちゃんの呼び声が。ハッと我に返れば、崩れ落ちそうな程に芯の抜けたキミ。
「………メンゴ?」
「はぅぅ…」
吐息がかかる距離でそう囁けば、どんな顔すれば良いのか分からず目を白黒させながら溜め息を漏らす。
「ホント、最っ高の誕生日だ…」
見つめ合って、ふたりリンゴみたいな顔をしたままで微笑んだ。神様───俺、今まで生きてきた中でいちばんシアワセな誕生日を過ごしてます!
「あの……改めまして、お誕生日おめでとうございます千石さんっ!!」
「ん、ありがとう巴ちゃん♪」
* * * * *
な…なんとか間に合いましたね。久し振りの清巴です!日記の宣言通りお誕生日ネタで。無駄に糖度が高めです(笑)
おぉう…何か必要以上に甘々でビックリι
ずっと気にはしてたのですが、実はメインの清巴よりも先にリョ静でチューを通り過ぎてしまっていたんですよね〜ιウチのリョーマさんたら、手が早い(爆笑)
だから、誕生日ネタでは絶対やろうと決めてました♪
途中までやたらヘタレな千石らしい感じで、『誕生日なのに…ι』と可哀想だったので、最後くらいは巴ちゃんをアタフタさせる男前(?)にしてみたり。ちょっと楽しかったです(笑)
あ、マフラーのネタは8割実話です(爆)
何でか私が編むと、ガッチガチかつキュッと締まった力強いマフラーが出来上がるのね…(遠い目)
2008/11/25