誰よりも最初に


 いつもと同じ時間、いつもと違う日曜日。待ち合わせの場所に着いたキミは、いつもは見せない変わった姿。

「珍しいね、帽子かぶってるの」

 普段あまり見る機会の無いキミのスポーツキャップ姿。レアな光景に少し嬉しくなる。

「そ…そうですか?」

「うん。あんまり被らないでしょ、帽子」

「顔が隠れるのが何か好きじゃなくて…」

 巴ちゃんらしい意見だけれど、そこでふと疑問が浮かぶ。

「あれ?じゃあ今日は隠したくなる理由でもあるのかい?」

「えっ!?あっ…あの、その…」

 明らさまな慌てっぷりに、思わず芽生えるイタズラ心。

「……とっちゃえ☆」

「ああぁっ!!」

 取り上げたキャップの下から現れたのは、見慣れたキミの顔と…見慣れないもう一つの要素。

「………ありゃ?」

「千石さんのイジワル〜ッ!!」

 真っ赤な顔して涙目で帽子を取り返して、巴ちゃんは急いでそれを被り直す。俺はその予想外の事に、固まったまま動けない。

「…あ、いや…メンゴ?」

「ヒドイですよっ!!不意打ちなんて…」

「あ…ハハハ、だよね。悪かったよ。…で、どうしたんだい?その前髪…」

 やっと戻ってきた頭と共に、浮かんだ疑問を尋ねてみる。前に会った時とは、少しだけ違うキミ。バッサリ短い前髪のキミに。

「昨日の事なんですけど…」

「うん」

「…ちょっと前髪が目にかかってきたから、急に切りたくなったんです」

「うんうん」

「美容院高いし、自分でいつも切ってるから大丈夫かな?って。新聞紙を引いて、部屋で切ったんです」

「ふんふん」

「そしたら…リョーマくんがお風呂に入れていた筈のカルピンが背中に飛び付いてきて…気付いたら…」

「…バッサリいっちゃった、ってワケ?」

「うわぁ〜〜〜〜〜んっ!!こんな恥ずかしいアタマした私、千石さんにだけは見られたくなかったのに〜っ!!」

 必死で目深にキャップを被りながら嘆いたキミには、普段は見れない魅力があって…。不謹慎だけども、思わずチューしたくなってしまう。…辛うじて働いた理性で抑え込んだけれど。

「でも……ビックリはしたけどさ、そんなに変じゃないと思うよ?」

「…そうですかぁ?」

「俺の言う事じゃ信じられない?」

「そんなこと…ないですけど…」

「けど?」

 まだ不満があるのか口を尖らした巴ちゃんに、さり気なくその先を促してやる。

「昨日その後、部屋に来たリョーマくんたら笑ったんですよっ!?『プッ』て!!バカにしていた笑い方とかじゃなくて、アレは絶対本気でウケてたんですよ!!普段そんなに笑ったりしないあのリョーマくんがっ!!」

「あぁ〜…なるほど…」

 それでトラウマみたいになっちゃったってコトかな?

「前髪ならさ、きっとすぐに伸びるとは思うけどな」

「ですかねぇ…?」

「それにさ…髪が伸びるまでは、巴ちゃんの可愛い帽子姿が見られるんだよねっ?それもまた楽しみだし!」

 ポンと頭を撫でてあげると、いつもの全開スマイルが戻ってきた。

「えへへ…ありがとうございます!」

「うんうん。やっぱ巴ちゃんは、笑顔が一番似合ってるよ」

 どんな髪型だって俺の大好きな巴ちゃんに違いない。それだけで俺はもう充分なんだ。

「しかしまぁ…それだったら言ってくれれば良かったのに」

「えっ?」

「前髪くらいなら、俺が切ってあげたのに。こう見えて結構器用なんだよ?」

「えぇっ!?」

 本当は、本音は、ちょっと違うけれど。

「巴ちゃんのためなら、専属美容師にだってなっちゃうよ〜?」

「だって前髪だけだし…」

「それなら尚更だよ?眉毛のお手入れの延長みたいなモノでしょ」

 ちょっと苦しい理由だったかな?

「余計にダメなんですっ…!!」

「えぇ〜…なんで?」

「千石さんに見つめられながらだなんて……恥ずかしくて絶対大人しく出来ませんっ!!」

「………ぶふっ!!」

 思ってもみなかった直球の返答に、思わず吹き出してしまう。

「ひーどーいーでーすー!!」

「アハハハハッ……メンゴメンゴ!!あまりに可愛い反応だったからさ」

「えぇ〜?…だって本当なのに…」

「嬉しいな。それってさ、俺だけの特権ってヤツだよね?ラッキー☆」

 そう、特権だ。キミが誰にも見せない姿を見せてもらえる最高の栄誉。

「う〜ん…そう、ですね!だといいな♪」

「じゃあさ、ラッキーついでにもうひとつ、お願いしてもいいかい?」

 キミの弱味に浸け込んで、ワガママを言う俺をどうか許してほしい…。

「なんですか?」

「巴ちゃんが可愛くなった姿をさ、一番最初に見るのは…俺でいたいんだよね?」

「えっ……?」

「だからさ、恥ずかしがってても構わない。今度は…俺にやらせてよ?」

 些細なコトだけど、複雑な心の内を伝えておきたかった。巴ちゃんの事だ、きっと全然気付いたりはしないだろうと確信しながら。気付かれたりしたら、何かカッコ悪いよな。同じ屋根の下の、それも年下の彼に嫉妬しているだなんて。

「エヘヘ…」

 巴ちゃんはそんな俺の胸のうちをよそに、ギュッと腕に飛び付いてきた。

「ん?どうかした?」

「千石さん、ヤキモチだなんて何だか珍しいですね〜」

「えっ!?」

「ちょっと嬉しいなッ♪」

 あらら…気付かれちゃった?

「じゃあ…今度前髪が切りたくなった時は、一番に千石さんに会いに行きますね!」

 俺の彼女は鈍いようで、案外鋭いようだ。まったく…敵わないな、巴ちゃんには。

「うん!まかせといてよ」

 公然と自宅に誘える理由をゲット出来て、俺は今日も自分のラッキーに感謝していたのだった。



* * * * *

オチが無いっ!!(爆笑)

ただのバカップルみたいな話になっちった…うへぁ、おかしいなぁ。可愛くヤキモチ妬く千石っくんが書きたかった筈なのに(笑)

巴ちゃんって、絶対に前髪くらいなら自分でズバッと切っていそうなイメージが湧きます(スミマセン…/苦笑)

千石っくんが巴ちゃんの事を鋭いとか言ってましたが…多分ウチの巴ちゃんは野生のカンに頼っているに違いないです(笑)


2007/12/17


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