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「まぁ…!!ウィル?ウィルなのっ!?」


 初めてその人に会ったのは、とっても晴れた日の午後だった。開かれた扉からお日さまが飛び出してきたのかと勘違いしたくらい、とても綺麗な金の髪の人。お父さんの顔を見てすごく驚いてたのを覚えてる。
「やぁビアンカ。久し振りだね」
「お元気そうで何よりですわ」
 僕の前にいたお父さんとお母さんが、笑顔で挨拶をした。
「久し振りなんてものじゃないわよっ!十年以上も音沙汰無かったのよ?」
「ハハ…ごめんね」
 お父さんが怒られてる…滅多に見ない光景で、なんだか不思議な気持ちで見てしまう。
「とにかく入って。ここで立ち話もナンだし……と。あら?この子たちは?」
 やっと僕たちに気付いてくれたその人に、先に挨拶をしたのは妹のニーナの方だった。
「あの…はじめまして…ニーナです」
「僕の娘だよ。…こっちは息子。ほら、イクス?」
 お父さんに頭をポンってされた事も、ニーナが後ろから背中をちょんってしていた事も、実は全然覚えていなかった。僕はただそのお日さまに目を奪われてたから。
「こんな大きな子供たちがいるなんて…本当にすごい年月が経っているのね…。改めて実感しちゃったわ。よろしくね、イクス君、ニーナちゃん」
 差し出された握手に手を伸ばす事だけで、もう精一杯だった…。




「そんな…そんな大変な事になっていただなんて…」
 ビアンカさんは僕たちを家の中に招き入れ、温かいミルクティーをご馳走してくれた。一口飲むと、やっと心がホッとする。
「なんか…すごくやる瀬ないわ。そんな運命なんて…信じたくないもの」
 お父さんがビアンカさんと別れてから起きた事を説明した。それを聞いていたビアンカさんは、とても悲しそうな顔をして言う。
「ごめんね…」
「あっ、ううん!!そういう意味じゃないのよ?ただ…みんな辛い体験をしてきたのね…って思ったら、何も知らずに毎日過ごしていた自分が情けなくて…」
「ビアンカさんのそのお気持ち…とても嬉しいですわ」
 お母さんが笑うと、少し涙ぐんでいたビアンカさんも笑顔で頷いた。
「それにしても……ウィルの子供たちはおとなしいわねぇ。何も無い村だから…もしかして、退屈かな?」
 クスッと冗談混じりの笑顔でビアンカさんが言う。
「そんな…」
「そんな事ありませんっ!!」
 その言葉に、ニーナが言い終わるよりも先に、僕は大声で返事をした。思わず叫んでしまった事に、何より一番自分でビックリしてしまって、慌てて言い訳をする。
「だってすごく…綺麗な所だし、鳥の声とかも近くに聞こえてくるの楽しいし、それと…ビアンカさんの紅茶がとっても美味しいからっ…!!」
 何を言ってるのか、分からなくなってきた。ポロリと漏れてしまった本音に、ビアンカさんはクスッと笑って僕の頭を撫でてくれる。
「ありがとう…嬉しいわ。じゃあ取って置きの美味しいお茶菓子も用意しなきゃよね!ちょっと待ってて」
 そうしてウインクひとつキッチンの方へと行ってしまった。僕は自分の言葉を反省しながらも、触られた頭のてっぺんがあったかくなるのを感じていた…。



「ニーナッ!!」
 バタバタとお行儀悪く、僕は妹の部屋に飛び込む。
「お兄ちゃん…またぁ?」
 すっかり出掛ける準備を整えていた僕の姿を見て、ニーナは少し呆れた顔してこちらを見ていた。
「いつもゴメンね?でも…今日も一緒にお願いっ!!」
 両手を合わせて頼み込むと、ニーナはちょっと溜息をついて、でも仕方ないなと首を縦に振ってくれる。
「やった!それじゃ、早速行こうっ!」
 渋るニーナの腕を捕まえて、僕は浮足立った気持ちで山奥の村へと飛んだ。


 あれから何度かビアンカさんに会いに行っている。

 初めの内は、懐かしくて会いに行ったお父さんとお母さんに付いていって。
 でもだんだんと会いたい気持ちが強くなっていって、いつからか……ニーナを誘って頻繁に会いに行くようになった。いつも妹と一緒なのは…僕じゃルーラが使えないからね。

「ビアンカさん!」
 家の扉をノックすると、中から現れたのはおヒゲのおじさんだった。
「おや、また遊びに来てくれたのかね?いらっしゃい」
「こんにちはっ、ダンカンおじさん!」
 ダンカンおじさんの大きな手が、僕の頭を優しく撫でる。
「すまんがビアンカは少し出掛けているんだよ。もうそろそろ帰ると思うから、中で待っていてくれんか?」
 ビアンカさんが留守なのは残念だったけど、すぐ帰るなら…と、僕はダンカンおじさんのお言葉に甘えることにした。
「おじゃまします」
 ニーナが扉の奥に入りかけたところで取って付けたようにひと芝居うつ。
「あっ!僕お花を摘んでこようと思っていたんだ!」
 不自然に上ずった声。多分…ニーナは気付いたんじゃないかと思う。だけど…一秒でも早くビアンカさんに会いたくて僕は外に飛び出した。
「坂道が急だから気をつけるんだよ」
 遠くにダンカンさんの注意を聞いて、元気良く手を振りながら答える。
「はぁーいっ!!」

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