‡3‡

「なっ…何か変だった?」
「違うの。だって…子供の時は全く逆の事を言ってたのよ、アレス」
「そうだったっけ?」
 言われて思い出そうとしてみるけど…全く覚えていなかった。
「あ!その顔は覚えてないんでしょ?」
「………ぅう」
 図星を指されて何も言えない。
「…ホラ、あなたがパパスおじ様と船で旅立つ前、一度アルカパに遊びに来た事があったでしょう?」
「うん。それは覚えてる」
 確かビアンカのお母さんから渡したい物があるので来るって手紙を貰った時、父さんが女性一人では危ないから自分が行く…って言い出したんだ。
「その時にね、うちの宿の裏にある池のまわりで一緒に遊んだのよ。それでね…楽しくてはしゃぎ過ぎた私が勢い余って池に落ちちゃって…」
「ああ、あの時か!」
 そうだった。その時に、ビアンカより先に驚いた僕が泣いてしまって、彼女と父さん二人に笑われたのを思い出した。
「びしょ濡れの髪を乾かす為にみつあみを解いた私を見て、あなたってば言ったのよ。ビアンカが大人になっちゃった!!って。フフ……それでまた泣いちゃったのよね」
 まったくその通りの記憶だったから、ぐうの音も出ないや。
「あの時は……ビアンカが別人みたいになった気がして、なんとなく怖かったんだと思う…」
 子供の時に感じたことが、久し振りに思い出されて…懐かしさを覚えた。
「女の子って…髪型一つで別人みたいになるんだね」
「男の子からはそう見える?……フフ。でも安心して。あなたへの想いは絶対に変わらないから!」
 僕がほんの少し怯えた顔を見せると、ビアンカはそう笑って…軽く僕にキスをくれた。
「んんっ……」
 それを僕は深いキスで返す。何度も、何度も……心に抱いたこの愛おしさを、どうにか彼女に伝えたかったんだ。
「…アレス…」
 唇が離れると、かすれた声でビアンカが名前を呼んでくれる。それを聞いて、僕は更に深く彼女に口づけた。
「んっ………んぅ!」
 こんなにも胸が痛い…
 こんなにも心が熱い…
 だって……君を心から愛してるから。君に心から恋してるから。
「………もぅ、どうしたのよ急に…」
 僕の頬に触れながら、ビアンカがそう尋ねる。
「ビアンカの言ったことが嬉しかったんだけど…それを表す言葉が何も見つからなかったんだ……」
「アレスってば…フフッ」
 今度はビアンカの方からキス……。
 僕たちはもう夫婦だったけど、やっと恋人に辿り着いたんだ。遠慮も気後れもなんにも無い…そう思える事が、何よりとても嬉しかった…。
 そっとビアンカの柔らかな胸元に手を触れると、彼女は少しの抵抗を見せた。でもそれはいつもの事で……。
「嫌ならやめるよ…?」
 僕はそんな彼女の気持ちを知りながら…そうやって聞いてやるんだ。
「ちっ………違うのよ!」
「うん、分かってる」
 ニヤニヤしながら答えると、ビアンカはほっぺたを膨らませて怒った。
「いっ………いじわる!!」
 そんな彼女も可愛くて、つい意地悪をしたくなる。
「可愛いね…ビアンカは」
 僕は微笑みながらそう呟き、そのままビアンカのその膨らみに手を延ばして、そっと優しく口づけた。
「アッ……!!」
 上がる嬌声。それが余計に僕の心奥を掻き立てる。
「ん………あぁ……ふ…」
 鼻にかかった甘い声が部屋中に響く。外の喧騒が嘘の様に静まりかえったこの部屋で、ビアンカを抱いた。周りがまだ寝静まってない時間に、僕は少しの興奮を覚えていた…。
「は………ンッ!あっ!!」
 ついばむようにビアンカの胸にキスを繰り返すと、それに伴って彼女の声音が艶を増してゆく。
「アレス…アレス……あぁっ!!」
 涙目になりながら僕の名を呼び続けるビアンカ。
「感じる……?」
 そんな彼女にわざと人の悪い問い掛けをする。
「んっ………うん…」
 ビアンカはそれに素直に答えてくれる…初めての時とは明らかに違う反応に、口許が緩むのが分かった。
「ひゃあっ………ああ……ァアンッ!!」
 僕は熱に身を包まれながら、その手をゆっくりと下ろしてゆく。
「んふっ……ん…アッ!!」
 ビアンカはさして抵抗もせずに、僕の手を受け入れてくれた。触れてみると、とても熱い…僕の行為に感じてくれたという事実が、何より僕の興奮を煽る。
「あっ…そんっ…ダメぇ!!アァアッ!!」
 スルリと下着の中に指を滑り込ませると、ビアンカは抵抗の言葉とは裏腹に、恍惚の表情を浮かべる。
「……熱い…」
「ッ…アレス…アレス……あぁっ」
 涙混じりの声でしきりに僕の名を呼ぶビアンカに、僕は段々理性を失いそうになるのを必死に堪えた。
「も………わたしぃ…」
 泣きながら訴える彼女に、僕はスッとその手をビアンカから離した。
「アレス……?」
 快感の波をせき止められたビアンカは複雑そうな顔で僕を見ている。
「僕も……もう、限界かも。いいかな…ビアンカ?」
 その問いに、言葉は無かった。ただ…こくりとひとつ頷きでの答えが返る。
「ありがと……」
 僕も微笑みながら、彼女の…その涙にキスをした。
「好き…好きよ、アレス。大好き……」
 うわごとのように呟かれたビアンカのその気持ちに、何より一番の幸せを感じながら…。

「あっ……アァンッ!!」
 爪を立てるほどに強く、その身を僕に張り付かせて喘ぐビアンカ。そんな彼女を、僕もしっかりと抱きしめた。
「んっ…ふぁっ…ッ!!……ァアンッ!!」
 目が潤む。手が汗ばむ。もう何も考えられない…ただ目の前の君とその行為にのめり込んでいった。
 他に幸せは無い。ただ…君とこうして一つになれる事だけが、この世に唯一で最高の幸福だった…。死ぬよりもつらい思い出の中で生きてきた僕がやっと得た最高の…最愛の宝物……。
「もっ………アレス!もう私っ……!!」
 泣きながら、耳元で訴えるビアンカ。切なくて色っぽいその声に、僕も自分の限界を感じていた。
「うん…うん……っ!!」
 ギュッと強くビアンカを胸に抱く。
「アッ……ああぁぁぁあぁ……ッン!!」
 泣いている…?思わずそう感じる程、切ない声で君は鳴いた。
「ッ……!!」
 そして、僕も果てる…。脱力しきった体でビアンカの横に寝転がると、彼女は優しく微笑みながら僕の頬をそっと手で撫でてくれた。
「私…幸せよ、アレス…。この世で一番の幸せ者…」

 ──僕も世界一幸せな男だよ……──

 そう返事をしたかったけれど、何だか意識が遠のいて笑顔を作るだけで精一杯だったんだ……。




 ───それから、月日は流れて…

「おかぁさーんっ!!ねぇ、おかあさん!!コレ落とさなかった?」
 ゆらゆらと息子の手の中で揺れる鎖を目にして、慌ててビアンカはそれを受け取った。首周りに触れると、やはりある筈の物がそこには無い。
「やだ…本当だわ。どこにあったの?」
「お部屋の入口よ!」
 一緒にやってきた仲良しの妹が、そう説明する。
「あら、鎖が緩んでるわ。そっか…もうだいぶ長い間使ってたから…。見つけてくれてありがとう。カイル…エレナも」
 ギュッ…と大事そうにその落とし物を抱きしめる母を見て、カイルはうずうずと好奇心が芽生えてしまう。
「ねっ…ねぇ、おかあさん。その指輪、いつも首にかけてたよね?大事なの?」
 そう聞かれたビアンカは、息子の頭を優しく撫でてやりながら答えた。
「これはね……あなたたちのお父さんがくれたプレゼントよ。手作りなの」
「本当?こんなに細かくてキレイな模様が入っているのに……おとうさんって、すごい器用なのね」
 うっとりとその指輪を見つめながら、エレナは呟いた。
「ええ。とっても器用で、でもとっても不器用な人よ…」
 クスッと思い出し笑いをしながら言う母に、双子は複雑そうな顔をしていた。
「そうね……いつかあなた達がもう少し大きくなったら、詳しく話してあげる」
「本当っ!?」
「ぜったいねっ!!」
 喜ぶ二人に、ビアンカは笑顔で指切りをした。
 息子が父のように、好きな人を喜ばせられる子になるように。また娘が自分のように、喜ばせてくれる大切な人と巡り逢えるように。心の中で、そんな願いを馳せながら……。


───あなたがくれた一番の贈り物は、この結婚指輪と可愛い二人の子供達よ…



 〜fin〜



* * * * *

2話目の大人向けな主ビアです。

相も変わらず若気の至りでアレな内容でございますが、実は配信時より若干表現をマイルドにしてあったりします。

『コレで!?』と言われてしまいそうですけど…メルマガの時は何も考えずにコレより直接的な表現を垂れ流してました。いま思えば何という黒歴史(笑)

でもひとつ目の主ビアの大人話よりは、二人の関係に進展があって楽しく書けた覚えがあります。不安がって甘えたさんなビアンカさんが妙に可愛かったです♪(自画自賛/笑)


変な話ですが、こういうのって今の自分には書けないなぁ…って思う瞬間が結構あります。そういう意味でも若かった。逆に今の自分にしか書けないものとかもあるのかな?

10P目
[章]3/3

<<前 次>>
=TOP=


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -