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「お隣…ご一緒させて頂いてもよろしいでしょうか、ウィル国王陛下?」
「…うわ、なにそれ。なんだか変だよ。気持ち悪いよ、ビアンカ」
 落ち着いた淡色のドレスに身を包み、彼女らしからぬ形式張った口調でひとつ尋ねてきたビアンカに、幼なじみの彼は苦笑い混じりに答えた。
「あら…?少しは淑女らしく振る舞ってみようかしらと思ったのに、ご挨拶ね!…そんなにおかしかった?」
「………いや。ただ、僕はいつも通りの方が君らしくて良いと思うんだけど?」
「フフフッ…本当、貴方って変わらないわね、ウィル」
 上目遣いにこう微笑まれて、幼い時の思い出が少し顔を覗かせる。そのことが妙におかしくて笑いがこぼれた。
「正直…ね、君はイクスの事どう思っている?…って聞きたかったんだ」
「あら?こんなおばさんじゃ心配?」
「いやいや!そんなこと無いよ!ただ…あの子の本気に君は応…」
「ストップ」
 複雑な思いを巡らせたような顔で話す彼のセリフを遮って、ビアンカはじっとウィルの目を見ながらこう続ける。
「ひとつだけ、信じてほしいの」
「えっ…?」
「…彼は誠実だわ。むしろウィルなんかよりよっぽど紳士的」
「ビアンカ〜…」
 ビアンカの手厳しい言葉に、立つ瀬の無いウィルは困り果てた顔をしていた。
「フフッ…冗談よ。でもね、そんな彼の本気を茶化すつもりなんて、私には全然無いわ。貴方に言うのは間違ってるかもしれないけど…私自身、彼のこと一人の男性として認めているんだもの」
 文字通り、隣のお姉さんの突然の告白に、ウィルは思わず手にしていたグラスを取り落としてしまった。
「おっわっ……ああっ!!」
 派手な音を立てて床に転がって染みを作ったグラスだが、幸いにも割れる事は無かった。
「キャッ!!ウィルったら、大丈夫?」
 その騒ぎに最初に気付いたイクスが、青ざめた顔で慌てて駆け寄ってくる。
「ビアンカさんっ…大丈夫でしたかっ!?怪我は無いですかっ!?」
「…ぇ、ええ。大丈夫、何ともないわ。ゴメンね、心配させちゃって」
「良かった…」
 ホッと胸を撫で下ろしたイクスの笑顔を見て、先程の続きかの様に、ビアンカはそっと人差し指を口に当ててウィルにささやいた。
「……ね?とっても紳士的」
「…ああ、確かに」
 まだまだ幼いままだと思っていた息子の、想いを寄せる女性に対する気遣いを目の当たりにして、おかしさとは別の、何か暖かい物が込み上げる自分がいた。どこか寂しくて、どこか心安らぐ物が。
「あっ…あの!」
 両者の無言の会話に割り込むように、イクスが控え目に声を掛ける。
「ん?何だい、イクス」
「お父さん、ビアンカさんとのお話って終わった?だったら僕…その…ビアンカさんをダンスに誘いたいんだ」
 突然のお誘いに、どうする?と声には出さず尋ねる父親に、ビアンカは満面の笑みで首を縦に振った。
「ええ、もちろん喜んで…謹んでお誘いお受け致します。…どうぞよろしくね、イクス」
「えっ?あ……あぁぁっ!!えと…あの、コチラコソッ!!」
 初めて『名前だけ』を呼ばれたことの意味に気付く。返事こそ慌ててしまったけれど、それでも彼は必死に紳士らしく振る舞った。
「…息子をよろしく頼むよ、ビアンカ」
「ええ。……こちらこそ、よろしくね。お・義・父・さ・ま☆」
「ッ!?」
 突然の切り返しに、またも持っていたグラスを落としそうになる。
「……ハハ、やられた…」
 ビアンカの言葉が本当になるかどうか…それはまた別のお話。



〜おわり〜



* * * * *

息子クン×ビアンカです。

勇者クン×ビアンカ?
青髪息子×ビアンカ?
まぁカップリングの呼び方はご自由に。ビバ!年の差カポー!!大好物です♪(笑)

手の届かないくらい年上で綺麗でモテるお姉さんに、憧れ以上の想いを抱きつつ必死に頑張る男の子の構図が大好きなのですが、もう少し足掻いたり挫折したりする様子を描きたかった気もしますね。今見るとちょっと描写が足りなめな感じ(泣)

本当はこんな駆け足なんかじゃなくて、もっとゆっくり二人の気持ちを育ててく様子を書きたかったハズなのにな…つい気が急いて急ぎ過ぎちゃいました(苦笑)

でも個人的に最後の主人公とビアンカのやり取りが書きたくて、むしろ作者側が必死に頑張った気がします。個人的には文章のまとまりはひとまず置いといて、そこだけはイイ感じに仕上がったような…多分気のせいだとは思いますが。


非常にマイナーかつ支持者の少ない隙間カップリングではありますが、少しでも『好きだ』と感じて頂ければ幸いです♪

19P目
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