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 自分の気持ちを綴った手紙を目の前で読まれる恥ずかしさに気が付いたのは、彼がその手紙に目を通し始めてから。
(れ…冷静になって思えば…これは…)
 何というか…憧れの相手に渡した恋文を目の前で読まれているような…そんな気分になるもので。少しいたたまれない気持ちながらも、ただひたすら…真摯な面持ちで手紙を読んでくれることが純粋に嬉しくて、自然と笑みがこぼれた。
「………フゥ」
 微かな溜息を漏らし顔を上げたウィルさんの様子に、胸が高鳴る。期待と不安…二つの気持ちが、私の中を駆け巡っていく。
「………」
「あ…あの、ウィルさん…?」
 黙ったままの彼に問い掛ける。すると困った様な…でもいつもの優しい笑顔で私の頬にそっと手を添えてくれる。
「夫婦の定義が何なのか…今でも僕には分からない事なんだけど…」
「えっ…?」
「夫婦である事の大切さ…みたいなものは、少しだけ分かった気がするよ」
 想像と違う彼の答えに面食らっていると、ウィルさんは解っているよ、という様に首を縦に振りながら続けてくれた。
「こうして少しずつ、一つずつ緩い階段を昇っていって、小さな壁を二人で乗り越えて…そうして、段々と重なっていく二人が感じられた時、きっと夫婦である事の価値を見出せる気がするんだ」
「夫婦の…価値…?」
「僕はね…フローラ。君と結婚をした日から、ずっと誓っていたんだ。……君を守り通すと。君を傷付ける、あらゆる物から君を守る事…それこそが、夫の僕の責務であり、最大の願いであると。でも…それは違った。いや、間違いだという事に気付いたんだ」
 彼の見上げた空には、一番星が輝いている…。もうそんな時間になっていたんだわ。
「僕は…身勝手にも、君を支えてる気になっていただけなんだ。こんなにも君に支えられてた事を、君から離れなければ気付けなかった。だからね…苦しかったけれど、今回の事は全く後悔してない。だってフローラをもっと隣に感じられるようになれたんだもの」
「ウィルさん……っ!!」
 彼が私と同じ気持ちでいてくれた…。その事が嬉しくて、今度こそ…涙が溢れ出た。
「…ねぇ、フローラ…。本当に、今更になってしまったけど…もう一度誓わせてほしいんだ。聞いてくれるかな?」
 続く言葉は…きっと想像通りだろう。それでも構いはしない。いいえ、むしろ彼から直接聞きたい。私は、ゆっくりと頷いた。
「僕と…共に生きてくれますか──?」
「はい……はい……───っ!!」
 頬に添えられた温かく大きな彼の手が私の涙をゆっくりと吸い取ってくれる。結婚式で立てた誓いの言葉…長い時間をかけて、今やっと私達を繋いだ。

 『共に生きる』─…こんなにも重く、けれど強い絆を感じる言葉。今この瞬間に、私は彼の背中を預けられた。これ程の誇りが、果たして他にあるかしら…?

「傷付いても構いません。怪我する事も怖くはないです。何より、貴方を守るというこの喜びを、光栄を、どうして私が受け取らないでしょうか?」
「うん…。ありがとう、フローラ…」
 ホロホロと流れる涙を拭う事も忘れ、ただひたすら心の内の気持ちを伝えた。そんな私を、彼はそっとその逞しい腕に抱きしめてくれる。ウィルさんの鼓動が私の耳を黙って打ちつけた。今はただ、その快感に酔いしれていたかった…──





〜追記〜


 彼から貰ったあの手紙は、旅を終えた今でも大切に取っておいてある。この間たまたま覗いたら、ウィルさんの部屋の机の引き出しにも私が送った手紙が大事そうに取ってあって…その事を話すと、『だって…フローラからはじめて貰ったラブレターだから』といつもの照れ笑いでこう語ってくれた。

 結局二回目の手紙は送らず終いだったのだけれど…。

 手紙を読むたび思い返すこの気持ちがきっと今でも彼と同じであることを願いつつ…私はふと思い付きでペンを取る。



『〜愛する旦那様へ〜

 こうして貴方への気持ちを綴る事で

 今も鮮やかに蘇る想いがあります…

 それを伝えたくて

 このお手紙を貴方へ届けます…──』



 〜fin〜



* * * * *

初めての主人公×フローラです。今までフローラ編のお話は書いてきましたが、ほとんど息子クンとビアンカさんのお話ばっかりだったので新鮮なカンジ(笑)

メルマガ配信時に1話分だった文章が、コチラにまとめたら1P2話分になってしまったせいで、イマイチ伝わりにくくなりましたが…フローラさんの視点と、主人公視点。二人の一人称が交互になるような構成でした、以前は。

手紙の文と混ざって余計に解りにくいι

主人公がかなり弱気かつ女々しい行動を取っていて反省気味ιでもフローラさんが彼を助けるシーンを書きたかったんだ…恐らく。



余談ですがフローラさん編のパーティの我が家のキラパンはプックル固定です。一瞬コレも名前変換機能とか使おうかと思いましたが、あくまでウチのパーティのお話だし…ま、いっか☆なスタンスで(笑)

24P目
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