‡冬の雪と貴方の背中‡
「うぅぅぅ〜〜っ!!寒い寒い寒い〜っ!!もう堪えられないわっ!!」
寒さ厳しい曇天の下。そんな状況に、案の定…真っ先にマーニャさんが白旗を上げた。
「ちょっと、メイッ!アナタその格好で寒くないの!?」
「うん、鍛えてるから」
そう答えると、マーニャさんは歯がみをして悔しがっていた。
季節の訪れは、いつも突然だ。今日も馬車を連れての旅を続けていた私達の上に不意にふわりと雪が降り始めて、もう冬なのだと告げていた。
「…寒いと思っていたら、やはり降ってきましたな」
同じく薄着のライアンさんがポツリとそう呟く。外を行く仲間達はみんなこの陽気でも寒がったりしないけど、馬車の中の人達は少し耐えられないみたい。
「ねぇ、ちょっとミネアッ!!確かこの辺に毛皮のコートあったでしょ?どこ!?」
たまり兼ねてか、マーニャさんはそうおねだりをする。
「……あれは姉さんがカジノでコインを買うために売ったんでしょう?」
溜息をつきながら呆れ顔のミネアさんの言葉に、可笑しいくらい目を丸くして絶句している。マーニャさんったら……相変わらずだなぁ。
「………っくしゅ!!」
「あら?メイも寒いの?」
突然出たくしゃみに、一緒に馬車の外を歩いていたアリーナさんが、心配して声を掛けてくれた。
「……ん?あれ?寒くはないんだけど…変だなぁ」
クスンと鼻をならす。今は防寒のために上着も羽織ってるし、そんなに寒さは感じていないのに…。
ゴンッ!!
「うひゃあっ!!」
不意を突いて、派手な音とともに頭の上に降ってきたモノに、私は痛みと衝撃で思わずその場にうずくまった。
「うぃ〜…ったぁぁ〜……。ピサロ様、痛いよぉっ!!」
「………」
私の言葉には動じず、彼は先を行ってしまう…。硬いショルダーガード付きのマントを残したまま。
「……クスッ」
「もぉ!アリーナさん笑わなくたって」
頭をさすりながら怒る。
「ゴメンゴメン。素直じゃないなぁ〜…って思ったら、何か笑えてきちゃって」
「へ?」
「だってそうでしょう?彼、メイのためにマントを貸してくれたんじゃない」
その言葉に、ちょっと考えてしまう。だって、それなら…
「…コレは外してくれてもいいのに」 後頭部のこのズキズキの原因を指して、ぷうっと膨れっ面になる。
「だから、素直じゃないのよね」
「……そうだね。フフッ」
彼の彼らしい心遣いに、私もなんだか笑いが込み上げてきた。
「え〜いっ!!」
駆け足で彼に追い付いて、そのままの勢いで背中に飛び込んだ。
「ッ……!!」
そんな私の突然の行動に堪えられずによろめいた彼は、少し恨みがましい目でこちらを向く。
「ありがと、ピサロ様!」
「………何の事だ?」
お礼を言ったけど、素直じゃない彼はやっぱり知らんぷり。
「やっぱり寒いね〜」
「………」
物言わぬ彼の手をそっと取れば、氷の様にひどく冷たかった。
「へへっ……寒いよね」
「………ああ」
「一緒にいればあったかいよね!」
「………」
彼の返事は聞けなかったけれど、否定されなかった事が逆に嬉しい。
普段なら言えないような言葉、何故か口を突いて出た。寒さも手伝っていつもと違う私になれた気がする。
ほんの少しあったまった彼の手に指を絡め、短い間彼の手袋役を勤めてみた。
寒いけど満ち足りたほかほかな心に、胸いっぱいの幸せを感じながら…───
〜おわり〜
* * * * *
まえまえさんに頂いたリクエストです。
実は『秋をテーマに』が元のリクエスト内容だったのですが、私の文才の無さ故にうまく話が思い浮かばず…申し訳無い事に冬をテーマとして訂正させて頂いた物です(爆)
雪降る旅路でのワンシーン。密かにこのお話、お気に入りです。自然にラブラブに出来たもので♪
無駄にバカップルなピサ勇でござります…と説明するとピサロ様が怒りそうですかね(爆笑)
…あ、気が付いたら珍しく勇者ちゃんの一人称だ。
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