‡お姉様的恋愛法‡

「ちょっとミネア!聞いて!聞いてよ!もうすっごいの!!一目惚れよ!今度こそ絶対間違いないわ!本物の恋よ!!」
 草木もまどろむ昼下がり、静かに読書を楽しんでいたミネアは、唐突に部屋へと飛び込んできた姉の、こんなひと言で現実に引き戻された。
「姉さん……またなの?」
 そんな姉君マーニャの、『本物の恋』発言は今回が初めてではなかったので、呆れて思わず溜め息が漏れてしまう。
「ちょっと!何かバカにしてない?」
「別に…バカになんてしてませんけど」
 冷たく切り捨てれば、姉は怒ってこの話をやめると思っていたのだが…予想に反してマーニャはにんまりと、嬉しそうな笑顔を浮かべて続けた。
「ふふ〜ん♪そうやって甘く見てるのも今のうちよ?彼を見たら、絶対先に手を付けた私に嫉妬するわ!」
「別に嫉妬なんて…」
 余程自信があるのだろうか…マーニャはガッツポーズひとつ、ミネアの反論を叩き消してしまう。
「とにかく一目見てみなさい!彼を紹介してあげるわっ!!」
「紹介って…まだ話もしてないクセに」
 午後の優雅なひと時を邪魔されて少し不満だったのだが、この強引な姉のすることに逆らえた試しは無く、仕方なしにミネアは半ば引きずられる形でその彼のいる場所へ連れていかれる事になった。



「ホラ、あの彼よ!あそこで歌っている吟遊詩人。最っ高にカッコイイでしょ?歌を歌う姿は更に綺麗よね」
 マーニャに連れられて来たのは、町の中央にある小さな広場。子供に囲まれた人垣の真ん中にいる男を指差しながら、しきりに興奮して喋り倒す姉に、呆れ顔をしつつもよくよく目をこらしてやる。
「あっ………あれは!」
「なによ?何かあるの?」
 不意に声を上げた妹に、姉は訝しげな顔で問う。
「姉さん…悪い事は言わないわ。あの人だけはやめておいた方が良いと思うの」
「なによ、ミネア!アタシの恋路を邪魔するっての!?」

──そうか…姉さんはあの時いなかったから知らないんだわ……──

 忠告虚しく食ってかかる姉に成す術も無く困り顔をしていると、頃合い良くも歌い終わった吟遊詩人と、バッチリ目が合ってしまった。
「あっ!!嫌だ姉さん、今日は私達が買い出し当番じゃない!早く帰りましょ」
 慌てて姉の腕を引いて離れようとするミネアに不信感は拭い切れなかったが、買い出しの当番なのは事実だったので、マーニャは仕方なく従うことにした。



「ミネアさん!ミネアさんですよね!?」
 両手にいっぱいの荷物を抱えながら、商店街の細い路地を一人歩いていると、不意に背後ろから自分を呼ぶ声がして、ミネアは渋々振り返った。
「あぁ、やっぱりミネアさんでしたか…お久し振りです。その節は大変お世話になりました。お元気でしたか?」
「………えぇ」
 どこか聞き覚えのある声に嫌な予感がしていたのだが、その主は案の定…例の吟遊詩人の男だった。思わず感情が顔に出てしまう。
「いまお時間は大丈夫でしょうか?色々お話をうかがいたくて…」
 チラリ、と姉の顔が頭を過ぎったが、この青年を無下に突き放す気にもなれずミネアは不本意ながら引き受けた。
「………はい、構いませんよ」
「荷物、僕が持ちますよ」
 彼はごく自然に、ミネアが持っていた荷物を自ら引き受けた。その様がとても紳士らしくて、思わず驚いてしまう。
「だいぶ……その生活にも慣れたみたいですね」
「はい…あれからもう二年です。色々と学ばせて頂きました」
 彼の穏やかな笑顔に、思わず顔が赤くなる自分がいた。ミネアは必死に止まぬ感情を抑える。
「とっ…ところで、他の皆さんは今どうされてます?ラッ…ライアンさんとか」
 切り出すタイミングをずっと模索していたのだろう。いささかか強引に、彼は尋ねてきた。
「フフ…あの時は会えなくて残念だったわね。ずっと会いたかったんでしょ?」
「あっ……いや、その…」
 バツが悪そうにポリポリと頬を掻いた青年に、ミネアは優しく彼らの居場所を教えてやる。
「ライアンさんなら今はお城にいるはずだわ。王様に国に戻ったご挨拶をしに、勇者様と一緒に行っていると思う」
「良かったぁ…やっぱりこの国に戻ってきて正解でした!バトランドに来れば、きっとライアンさんにも会えると思っていたんです!」
 彼がおおいに喜ぶ姿を見て、なんだか微笑ましくなる。その気持ちが、まるで弟が出来た様な感じだった事に、ミネアは少し複雑な思いだった。だって…彼の背格好はどう見ても自分より年上だったのだから…。
「ありがとうございました!早速お城に行ってみますね!」
「良かったわね」
「ハイッ!!」
 振り向くなり、一目散に走って行ってしまう彼の背中を見つめながら、ミネアは心が暖かくなるのを感じていた。



「ちょ…ちょっとミネアッ!!何でアンタがあの人と一緒にいるのよ!?」
 宿屋に戻ると、案の定…先程の様子を見ていたのか、切羽詰まったマーニャが詰め寄ってきた。
「よく見てたわね」
「当たり前よっ!!あの人の声が聞こえたと思って窓から覗いてみたら、アンタと仲良く歩いてるじゃないっ!!」
「…だから姉さん、あの人はやめた方がいいと…」
「ハッ!!まさかあなた私に内緒であの人のこと狙ってたんじゃ…。そうよ、そう考えれば納得いくわ!」
「姉さんっ!!」
 突然声を荒げて睨みつけてきた妹に、マーニャは驚き竦み上がった。
「いい?姉さんは前に彼と会っていないから知らないと思うけれど、彼の正体を知ったら恋だの何だの浮かれてられないわよ?」
「なっ………何よぅ!」
 ミネアがあまりに真面目で重苦しい顔をするものだから、つい躊躇って黙ってしまう。そんな姉の様子も解った上で、ミネアは続けて真実を語った。
「彼はね…────」




「…ねぇ、ミネアさん。マーニャさんが寝ながら酷くうなされてるみたいなんだけど…何かあったの?」
 アリーナは心配そうな顔をして、同じ机で朝食を取っていたミネアに尋ねた。
「ああ…気にしないでも大丈夫よ。またいつもの悪い病気が振り返しただけ」
「またフラれたんだ…」
 口元を拭いながら淡々と語る妹君に、大体の察しがついて呆れてしまう。
「今回はね、まぁフラれた訳じゃないんだけどね…。ハァ、いつになったらあの悪いクセが治るのかしら」
 常に姉の暴走により振り回され続ける妹は、そんな自分では占えない己の運命に嘆きながらも、いつかは姉がまともになってくれる事を切実に願っていた。


「いやぁ──────っ!!軟体は絶対に嫌よぉぉぉぉぉぉぉっ!!オヤジに負けたなんて納得いかないんだからぁーっ!!」


 〜おわり〜



* * * * *

カップリングじゃないです。強いて言うならホイミン×ミネア…かマーニャか?いや、絶対違うと思う!!(爆笑)


メールや諸々で色々とお世話になってるミチルさんから頂いたリクエストです。マーニャさんの暴走に、いつものように振り回されてるミネアさん…です(爆笑)

完璧にギャグですので、お気楽に読んで下されば幸い。弾けたマーニャさん書くのは非常に楽しかったです♪

ホイミンは人間に転生した時のドットが吟遊詩人だったけど、実は『穏やかそうな男性』ってイメージでそうなっただけで、本当は吟遊詩人には生まれ変わっていないって話も聞いた事はありますが、このお話では知られざる物語準拠で進行させちゃいました(苦笑)


今更ですが、ホイミンってあの時会えるのに敢えて会わなかったような…だから多分ライアンさんを探し歩いてるとかは恐らく有り得ない様な……ま、いっか☆(をい)

2P目
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