‡【連命】〜レンメイ〜‡

「そんなに大事なら、何で手元に置いておかなかったんだよ?」
 一言…突き刺さる様に真っすぐな言葉に、ピサロは静かに片方の眉を上げた。
「そうすれば、多分あんな事にだって…ならなかったのにさ」
「お前にどうこう言われる筋合いなどは無い」
 ピサロの座っていた場所から少しだけ距離を置き、レイは草むらに寝転んだ。殺気立ったピサロの言葉には何ら動じる事も無く。
「筋合いなら、あるよ。アンタを正気に戻したのがロザリーなら、そんな彼女をこの世界に呼び戻したのは俺達だ」
 少し傲慢な物言いをしてみた。ピサロが怒るのは目に見えている。けれども…どうしても聞きたい言葉があったのだ。
「ロザリーの…彼女の自由を、奪いたくなかったのだ」
 やがて重い口を開いて、ひと言だけ…答えが返ってきた。
「でもさ、あんな塔に閉じ込めてたら、むしろ自由なんて無いんじゃねぇ?」
「少なくとも一人で過ごす自由はある。考える事も。私と共にいれば、それすらも出来なかっただろう。まぁ…今は共に行動しているがな」
「ふぅん……」
 横に生えていた草を乱暴に摘み取り、軽く口にくわえながらレイはぼんやりと生返事をする。
「俺だったら、好きな人とは何が何でも一緒にいたいと思うけどな」
「ロザリーの意思を尊重したかった…。彼女は…私の提案に、自ら望んであの塔で暮らしていただけだ」

───…それは違うんじゃねぇの?

 飲み込んだ言葉の代わりに、くわえていた草を吹き出した。風に乗ってその葉はくるくると舞い落ちる。
「アンタさ、ロザリーにもし好きな男が出来たら自分から身を引くタイプだな、絶対」
「何の話だ?」
 こちらへは向かずに問い掛けられた。その様子は図星を刺された証拠だ…と、彼の態度にレイはハッキリと気が付いていた。
「ロザリーが望む者なら、私が口を出す事ではない」
 何も答えないレイに痺れを切らしたのだろうか、不意にピサロは語り始めた。
「それって……何か寂しくないか?」
「彼女が幸せなら、私はそれで構わないのだ…」
 究極の愛だな…──そうは思ったが、レイには納得がいかなかった。それは…究極の愛ではあるけれども、奪い取ってでも手に入れたい『恋』の心ではないのだから。
「何故…急にこんな話を始めたのだ?」
 今度は真っ直ぐにこちらを見ていた。レイは溜め息と共に言葉を吐き出す。
「夢を…見たんだ」
「夢…?」
「そ、夢。俺が女になっててさ、アンタの事好きなんだ。アンタも女の俺の事が好きで…変な夢だろ?」
 そう語るレイの言葉を、ピサロは鼻で笑った。
「下らんな」
「まぁ、俺もそう思うけどよ…。もしかしたら、そんな人生だってあったのかもしれない。そう思ったら面白くね?」
 そう問われると、簡単に下らないとは決め付ける事も出来なくなった。
「別の道……か…」
 望んでも、手に入らないもの。
 求めても、追いつけないもの。
 でも…それを想像するのも、悪くないかもしれない。
「お前は…理解出来ぬ奴だ」
「ヤローに分かってもらったって嬉しくないね!」
 お互いに、見合わせて笑う。良い感じに抜けた肩の力が二人の緊張を解いた。



 風に揺られて夏草が揺れた。

 あの夢は何だったんだろう?少し疑問に思ったが、すぐに答えは出なかった。
 でもきっと…もう一人の自分はどこかにいるのかもしれない。自分とは、違う人生を歩んでいるのかもしれない。そう思うと、何だか楽しくなってきた。

 ただ一つのこの広い世界を眺めるかのように、風は穏やかに二人の頬を撫でていった……。

 〜fin〜



* * * * *

前回のまえまえさんから戴いたリクの話を書いてたら無性に書いてみたくなってしまい挟んだお話です(笑)

私にしては珍しい、男勇者メインの話。決しておホ○達な展開ではな…(黙)
もしかしたら、何処かに有り得るのかもしれない『もう一人の自分』…そんな夢を見た勇者がその内容をピサロに語っております。
何が言いたかったんだよお前?みたいな状態になってしまったのはご愛敬(をい)

ちなみに男勇者のデフォ名は『レイ』。
女勇者と合わせると『黎明』という言葉になります。後から強引にこじつけた、思い付きの意味だったりしてι何となく勇者にぴったりの言葉だ!と思ってるのですが……使い方とかを間違っていたらどうしましょι(笑)

ええと、この作中で言ってる『勇者クンがピサロ様にどうしても言わせたい事』とは、女勇者が相手の場合にピサロ様とくっつくのOK問題無し!的な理由づけになる返答の事です。

ええ、完っ全にピサ勇信者のエゴですが何か?(爆笑)

4P目
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