「有名な話ですが」

どうしてそんなに傷ついたような顔をしているの。わたしが竜持くんにたずねると、竜持くんは質問には答えずに、一拍おいてからそう切り出した。
「事物は、自分よりも次元数の高い空間のことを理解できない、って言いますよね」
なにそれ。そんなはなし、きいたこともないよ。
わたしが目をふせて言うと、竜持くんはゆっくり息をはく。
にぎりしめたスカートから視線を上げてみると、竜持くんはいつもの、目に見えるものみんなを小馬鹿にしたような笑みをうかべてわたしの瞳をのぞきこんでいた。
「ぼくたちが今いるのは三次元でしょう。それは分かりますよね?」
分かりますよね? 竜持くんの言葉はわたしに話しかけている体こそとっているけれど、わたしがたてに首をふりきる前に、つづきがその口から語られる。わたしはふたたび目をふせて黙っていた。
「ぼくたちは一次元……点と線の世界と、縦と横、つまり面で構成される二次元、そして縦、横、高さで表現される三次元を理解することができます。しかし、一つ上の四次元のこととなると、この三次元には、その構成要素すら確かな証拠を伴って説明できる人は誰一人いません」
つまりは、そういうことですよ。
竜持くんはもういちど息をはいた。
その綺麗な横顔が怖くて、わたしも静かに空気を吐き出した。
竜持くんはそう言うけれど、たしかに、わたしは竜持くんが考えていることなんてぜんぜん分かりそうにないけれど、竜持くんだって分かっていないじゃない。
わたしだって、他でもない竜持くんを理解し得ないことが、苦しいのよ。
竜持くんを見上げて、心がちくりと痛む。
でも、いいの。
悲しい目にあったやつあたりだって、なんだってかまわない。
竜持くんの言うことの半分もわからないわたしだけど、これだけは知っているもの。
わたしがこうして竜持くんの言葉を黙ってきいているかぎり、竜持くんはわたしを求めつづけてくれるのでしょう?

/121107
マニあ


もともとこっちに入れるつもりで書いてたけどしばらく放置してたらなに書きたかったのかわすれちゃったあれ

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