サクラ迷宮を攻略続けて、現在19階。
そこに現れた謎の空間を調査しに、セイバーを連れてやってきたはいいものの・・・
「仁王お願い変わって一生のお願い」
『無理言うんじゃなか。エンカウントした以上自分で責任取りんしゃい』
くっそー!
旧校舎に残っているマスターの中でサーヴァントを連れているのは、私を含め3人。
交替制で迷宮を攻略している仁王と、用務員室で引きこもっているジナコ・カリギリ。
仁王は現在私のバックアップ兼データ解析のために旧校舎に残っていて、もう一人のジナコはサーヴァントこそ一級品だけど彼女自身に戦う覚悟がないため戦闘は期待できない。つまり様子見の先発隊として動けるのは、足で稼ぐしか能のない自分だけだ。
だから、この19階で何が起ころうとも、自分の力で解決しなければならない。
わかっている。わかってはいるのだ。それでも・・・!!
「そんな嫌がらんでもえぇと思わん?なぁ?」
「いや、オメーが相手なら誰でも嫌がんだろ」
このイヤラ神父が相手なんて嫌過ぎる!!
「忍足、なんで手前ぇがここにいやがる」
心底うんざりした表情のセイバーに、忍足はあざとく口元に手をあてて小首を傾げた。
「せやなぁ・・・、説明しよ思えばできるんやけど長くなる話やし、ここは一つ大人の事情ってことで納得してくれるとありがたいわ」
「「「できるか!!」」」
「っていうかランサー、あんた自分のマスターほっといて何でそいつのサーヴァントやってんのよ」
しれっと突っ込みに参加している、青ランサーに訊ねる。
本戦では確か違うマスターがいたはずだ。
紅の長槍を構えたランサーは青い髪を掻き毟りながら唸った。
「俺だって好きでコイツと契約結んでねぇよ!!SE.RA.FUの馬鹿に聞けっ!!」
「ほぅ、案外“大人の事情”とやらも間違ってねぇな」
「俺たちのお月様はトチ狂っていやがる・・・!!」
『で、どうするんじゃ。戦うんか?』
完全に外野ということで暢気に観戦モードの仁王の言葉に、ハッとする。
そうだ。ランサーの言うとおり、彼らが契約しているなら忍足は現在、運営NPC兼鉄人購買店員兼マスターだ。
・・・正直、ランサーはともかく忍足が意欲的に戦う姿が想像できない。争いと縁遠そうなカソックといい、胡散臭さが爆裂している所を差し引けば穏やかな表情からは好戦的な印象は感じられない。あれ?もしかしたら、話合いで回避できる可能性微レ存在?
「忍足、ここで私たちが争ってもなんのメリットも得られないわ」
「そうやな。俺かて荒事は好かんのやけど、これでもお役所勤めやねんなー」
融通利かないところは流石NPCだ。この公務神父め。
「それにな。俺のモデルになった“忍足侑士”は地上の聖杯戦争のマスターやったんや」
「え、そうなの」
「そ。せやから、・・・戦闘力で君らに劣ってるわけではないんやで?」
「!?」
忍足の纏う空気が変わった!?
「来るぞ、マスター!!」
「へぇ?結構いい殺気出せるじゃねぇか眼鏡神父!!」
「Sword or Death…憂さ晴らしにちょうどえぇわ」
「・・・アンタ実はSSに購買店員やらされてたの根に持ってんでしょ!?」
ごめんなさぁい、雪樹ちゃん。
かわいい真朱にそっくりな、黒い笑顔のSSが眼に浮かぶ。
またあのかまってちゃんは余計なことを!!
ともかく、自己申告の通り只者ではなさそうな忍足を警戒する。
「セイバー!ランサーは幸運Eだからこの際適当でいいわ!忍足には注意して!!」
「おい聞き捨てならねぇぞ、嬢ちゃん!!」
「アーン?んなこと言われなくても承知の上に決まってんだろうが」
「テメェふざけんなよ黒子ゴラァ!!」
「ランサー、下手打ったら自害やで?」
「おいっ、ここに俺の味方はいねぇのかぁあぁぁぁ!!」
『忙しないのぉ』
ほれ、ゴングぜよ。とやる気のない仁王の鳴らしたベルを合図に戦いの火蓋が切られた。
味方/Zeroの中でも律儀に槍を振るうランサー。・・・あれ、ちょっと待って。
「速くないっ!?」
槍捌きが自分の記憶より数段速い!!
セイバーもわかったらしく、初手を受けて目を見開いたものの冷静に切っ先を捌く。
スキルの発生速度がこちらよりも速いせいか、ランサーは手数で器用に攻めてくる。おのれ、持ち前の幸運Eはどうした!!
あっという間に1ターン経過し、様子見にセイバーが後退してくる。
「おいっ!!マスター防御力を上げろ」
「・・・!?了解!!」
まずいな。セイバーがステータスアップを自分から要求してくるなんて。
スピードは完全にランサーが上らしく、完全に攻撃を交わしきれてない。急いでコードキャストを発動させようとした、そのときだった。
黒い影が、セイバーに突っ込んできた。
「・・・ッハ!!」
「…っが!!?」
「嘘でしょ!!」
「嘘だろ!!」
私と、なぜかランサーの声が重なる。
無理もない。何故なら今しがたフィールドを駆け抜けて、ほぼノーガード状態のセイバーの鳩尾に一撃を食らわせたのは他でもない忍足だったのだ。
ランサーに目が向いていたとは言え、サーヴァントにガードの隙を与えずに一発叩き込むなんて人間技じゃない!
しかも涼しい顔でオマケの膝蹴りまで叩きこみやがった。脳天を揺さぶられ、たまらずセイバーが膝をつく。えぇ!?わけがわからないよ!
「言うたやろ?戦闘力では劣ってへん、って」
「なん・・・だ、と?」
「なるほど、八極拳じゃねぇの。くっ、筋力がダウンしてやがる」
そんなん、五回戦のアサシン先生で十分なんですけど。つーか君らって私だけじゃなくて、セイバー達も含んでの話か!!
「いい腕だな忍足!褒めてやるぜ、かかってきな!!」
「もうアンタが自分で戦いなさいよ!」
「えー、俺サーヴァント違うて。あくまで公務執行NPCやねんけど」
「・・・つーかオメェ、SSにも勝てたんじゃね?」
ランサー兄貴に禿同!
ちなみに、自称公務執行NPCはこの後も順調にセイバーを殴りに来た挙句、なんとか半分以下に減らしたランサーの体力を全快させるという鬼畜の所業をやってのけ雪樹にマジ恐れられるのであった。
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千夏様、リクエストありがとうございました!
言峰シンプソンのマジカル八極拳に度肝抜かれたのは私だけじゃないはず。もぅお前が戦えよと思った人も以下略。
ランサー兄貴には友情出演してもらいました。正直、忍足とは反りが合わないと思う。
楽しく書かせて頂きました。これからも当サイトをよろしくお願いします!