--------------------

【Sun×Mon】
 海に行きたい。
 ぽつりと零した思い付きに「よし、じゃあ行くか」とディマが軽く返すもんで、いまいち思考が追い付かず「え、え?」と戸惑っているうちに腕を引かれ車に乗せられ気付いたら海辺にいた。
 中途半端な時間に家を出たせいで海岸に足を運んだ時にはすでに日が傾きかけていた。よくテレビで見るような白い砂浜はなく、巨大な石ブロックでできたテトラポットが幾重にも積み重なっていた。
 傾いた太陽が赤く燃え、水面が幻想的な橙色に染まっていた。フラフラと吸い寄せられるように海岸に近付き、テトラポットをよじ登る。
 潮の満ち引きの音に目を閉じて聴いていると波立った心が落ち着いていくのが分かった。
「ディマ」
「ん?」
「ありがと」
「ん」
 短く返事をするだけのディマに少しだけ泣きそうになった。たぶん僕は今目の前の夕焼け色の海に感動しているだけだ。

――神様なんていない。はずなのに。
(あの時宇宙に行きたいと言えばディマは連れて行ってくれたのだろうか)



【Wed+Fri+Thu (Tue×Wed)】
 あらまあ珍しいこともあるものね、とヴァンが頬に手を当てながら目を丸くして言った。
 おばさんみたい、と言えば速攻で頭を叩かれた。物理野郎。
「早く謝っちゃいなさいよ」
「だってマル怒ってる」
 あんなに怒ってるの久しぶりに見た。喧嘩をしても謝るのは決まってマルなのだ。いつもいつも、ごめんなって先に謝られるからどうしていいか分からなくなる。今だって謝り方が分からない。どんな顔をしてマルの前に立てばいいか分からない。視線をどこに持っていけばいいか分からないし、手持ち無沙汰になった腕が不恰好に垂れ下がってるのが嫌で無意味に前髪を弄ってしまう。
「晩ご飯までに仲直りしてなかったらご飯抜きにするからね」
「なにそれ意味わかんない」
「はい、さっさと行く!」
 ヴァンに急かされながらも背を押されやっとの事で身体を丸めていたソファから腰をあげる。
「今日カキフライが良い」
「はいはい、アタシも大概甘いわよねえ」
「ヴァン好き」
「なんでそれがマル相手になると嫌味に変わるのかしら」
「うあー、本気で嫌われたらどうしよう」
「面白いくらいネガティブね…」
 ヴァンの言う通り、自分でも驚いている。マルのことになると笑えるくらいに自信がなくなる。それを知られたくなかったと素直に言えば許してもらえるだろうか。分からない。分からないことだらけだ。だからこう言ってやった。

――マルの宇宙人!
(「やっぱ怖い、ジュディついてきて」「やだよ」)


【Sat×Thu】
 いつも通りの時間に自宅の玄関を開け家に入る。いつも通り他のみんなはすでに帰宅していて、それを確認するかのように散らかったままの靴を揃える。いつも通り形ばかりのただいまを呟き、先にスーパーで買ってきた野菜を冷蔵庫にしまっておこうとこれからの簡単な予定を立てる。ここまではほぼ習慣で身体が覚えている。無意識的にこなす行為。だから、油断していた。
「サムー!おかえりー!ご飯にする?お風呂にする?それとも俺ー?」
「は?」
 無邪気に尋ねる目の前の少年に思考がショートした。ゴハンニスルオフロニスルソレトモオレソレトモオレ……ソレトモオレ……トモオレ…オレ…トモ……トモッテダレ。
「ほらー!別にサム喜んでねーし!なんだよお前らー!」
 固まったままのサムを置いてジュディがおそらくこの元凶となったふたりの元へと駆け寄っていく。遠くの方でケラケラと軽快に笑ってる数人の声がする。
 遠ざかる背を何とも複雑な気持ちで眺めた。
「まだ何も言ってないんだけど」
 ぼそりと溢れた言葉は悲壮感で染まっていた。

――ねえ、ダーリン?
(「ぐっどらっく!」「……どうしようもないこの気持ちをディマの顔面にぶつけても」「八つ当たりは良くないと思うよサムくん」)


--------------------
back

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -