私の家庭教師をしている慎吾さんは大人っぽいし、雰囲気とかがもう大学生っぽくない。だから他の大学生に比べて浮いているのはそういうのが理由なんじゃないだろうかと思う。それは慎吾さんの笑みだとかが原因だと思うけれども実際私はよくわからない。
「慎吾さん疲れました」 「んー、もう少し頑張ろうなー?」
私の頭を撫でながらけらけらっと笑う。大学のレポートのために難しそうな専門書を何冊も読みながら、ノートなんかを取っている慎吾さん。いい加減に私の家庭教師をしながら自分の勉強をするのはやめてほしい。
「慎吾さんはもっとこっちに集中ー」 「どこかわかんないとこあった?」 「特にないけど」 「ていうかおまえ頭いいんだから俺雇う必要なくね?」 「それなりにわかんないところあるよ?」 「ふーん、...あ、3番目のcの答え間違ってんぞ」 「え、嘘」 「そこ17な、計算ミス...たぶん最後に引いてるだろ」 「あ、足すのか、これ」 「よくできました」
にっこりとほほ笑み私の頭を撫でてから、コーヒーの入った慎吾さん専用のマグカップに口をつけているのをじっと見ていた。その雰囲気から勘違いして最初のころはよくブラックを入れてたけれども、必ず後からミルクと砂糖を足しに母のもとへ行くのを最近私は知った。慎吾さん実はブラックが苦手で砂糖やミルクのいっぱい入ったコーヒーを飲む。子供っぽいところがすごく意外でそれを発見した時、私はついお腹をかかえて笑ってしまったもんだ。
「そういや、このロールケーキうまい」 「あ、本当に?」 「お母さんの手作り?」 「...私が作った」 「うわ、すげー、なんか見直した」
やっぱり甘いものを作れる女の子は良いとか言い出した慎吾さん。おやつ洋にと作ったロールケーキぐらい別にどうってことないよ。本に書いてある手順通りに書かれたものを入れるだけだし。
「...あーん」 「ちょっとちょっとちょっと、何してるんですかこのエロ家庭教師」 「おすそわけだって、ひでぇ言い方すんなぁ」
そういいつつも一口サイズに切り取ったロールケーキをフォークにさしながら私に向けて一向にどかす気配がない。早く口を開けろとでも言わんばかりににっこり笑って私を待つ慎吾さん。
「...子ども扱いしないでください」 「ばーか、子供にはこんなことしねーよ」 「...うそつき」 「あ、お礼はキスでいいから」
私だってもう高校生だ。キスの一つぐらい知ってる。愛の意味ぐらい知ってる。差し出されたロールケーキに口をつけ、そのまま満足そうに目を細めている慎吾さんの口に生クリームがちょこっとついた自分の口を押し付ける。別にそんなつもりもなかったけれども、いつまでたっても子供扱いする慎吾さんにちょっとびっくりさせてやりたかっただけ。なんて相変わらず余裕そうに慎吾さんは私にキスを返してくれた。しまった。あーんさせてくれたのってまさか慎吾さんの計算内だったかな。まぁ、それでも甘いからいいかな。
「大好きです」 「知ってる」 「愛して、はないですけどね」 「なにそれ」 「愛してたいんです」 「...ばーか」
甘いコーヒーに口をつける慎吾さん。 ほんのり赤い耳にくすりと笑ってしまった。
あいしてない、あいしてたい
食べて仕舞おうさんに提出
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