「わぁ、靖友だ」
 「来てくれたんだ」そう言いながら俺の下に駆けてきた奴はその顔にとびきりの笑顔を浮かべていた。
「そりゃあ来るだろ」
 「福ちゃんからの招待だしよ」俺より幾分か背の低いそいつの頭に手を乗せて言えば、相変わらず寿一のこと好きだねぇ、とそいつはニコニコと笑って言った。
 改めてそいつの姿に目をやる。真っ白なドレスに身を包み、同じように真っ白いベールを纏ったそいつは今まで見てきた女の中で一番輝いて見えた。つい先ほど彼女は友人と一生の愛を誓った。幸せそうに笑う二人を見て俺は嬉しく思った。だけど、同時に少しだけ友人を妬ましくも思ってしまった。
「荒北」
 聞き慣れた声で呼ばれた。声のした方を見やればそこには彼女と同じように真っ白なタキシードに身を包んだ友人がいた。
「福ちゃん」
「来てくれたんだな、ありがとう」
「二人して俺を何だと思ってんだよ」
 「呼ばれたら来るだろ、普通」彼女の隣に友人が並んだ。彼女は実に自然に自身の腕を彼の腕に回した。「だって靖友だし」「荒北だからな」俺をからかうように二人は笑った。

「あっ、そうそう靖友」
「なんだよ」
「かすみ草の花束に覚えない?」
 彼女のその突然の問いに思わずドキリとした。「いや、知らねぇよ」動揺を悟られないように平静を装って言えば彼女は、そっかぁ、と考えるような素振りをした。
「それがどうしたのか?」
「いや実はね、」
「名無しで贈られたんだ」
 彼女の言葉を遮るようにして言われた言葉に俺は思わず眉間に皺が寄った。声の主である友人を見れば、友人は俺を真っ直ぐに捉えていた。「そうなの。それにねカードも付いてたんだけど」未だ不思議そうに首を傾げている彼女を横目に俺は友人を見つめた。互いの間に言葉は無かった。それでもきっと、友人には伝わってしまっただろう。
「ま、別に誰だっていいんじゃねぇの」
「それもそっか」
 俺の言葉に納得したように頷いた彼女。「じゃあまた後でね」友人の腕を引いてこの場を去っていく彼女の後ろ姿を俺は眺めた。真っ白なドレスを身に纏った彼女はもう俺の手の届かない場所へと行ってしまった。

「わたしね、貰うならかすみ草の花束がいいなぁ」
 静かな教室に響いたのは彼女の小さな呟きだった。手元の日誌から目を前の席に座る彼女に向ければ彼女は窓の外をじっと眺めていた。彼女の視線の先を辿ればそこには教育実習生とかいう人たちの姿があった。その人たちを囲むように生徒たちが群がり、生徒たちの手から実習生へと渡される花束を彼女は見ていたのだろうか。
「そうかよ」
 彼女の呟きに対してそれだけしか返すことはできなかったけれど、俺の言葉に彼女は嬉しそうに笑った。

 友人の隣に並ぶ彼女はとても幸せそうに笑っていた。出来ればその隣にあるのが自分であればと願ったこともあった。隣に並ぶ友人を妬ましくも思った。彼女の隣には、俺が、並んでいたかった。
「幸せになれよ」
 遠くに見えるその姿にただただ願った。


「 かすみ草:切なる願い 」





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