いつも、花壇に水を遣っている。育てているのはあたしの大好きなラベンダーである。水遣りも日課なのだけれど、もう一つ日課なのがちらりと見える自転車競技部の練習を遠目で眺めていること。その中で一際荒々しい漕ぎ方をする彼を見つけると、見れて良かったと内心ほっとする。彼と喋ったことなんかあんまり無くって、でも、口が悪くてもなんとなく分かる本当は優しい一面も垣間見えて惹かれてしまった。何て、遠くから見てるのがやっとなあたしにとって、この時間がとても嬉しい。


「苗字チャン、いつもここで水遣ってるよな」

「え、」

声のする方を見れば、荒北君がそこにはいて、予想していなかった事に心臓が跳ねる。ユニフォームを着てビアンキを引く姿を見て、顔に熱が集まる。

「あ、荒北君どうしたのこんなところで。練習は?」

「今日はオフ。まァ今から走りには行くんだけど」

そっか、そう答えるあたしはちゃんと笑えているだろうか。不自然なところがないかと心の中で思う。


「苗字チャン、1年の時からずっとソレばっか育ててるけど、好きなの?」

「ら、ラベンダーのこと?一番好きな花なの」

あたしの言葉にふぅんと声を漏らす荒北君は、徐にラベンダーを手で揺らし、ニヤリと歯茎を出して笑う。

「俺も」

「…え、」

「俺も、この花好きだけど」

変な声が出てしまった。言っては悪いが、荒北君は花が好きとかそういう風にはあまり見えなくって、意外だったから。そういう心の中を見透かしてか、荒北君はまたニヤリとして、苗字チャン俺が花好きとか意外だと思ってるヨね、と言う。これはやばいと思い話題を逸らそうと思い付いた事を口にする。

「ぐ、偶然だね!ラベンダー何で好きなの?」

だけど荒北君はまだニヤリ顏で、でもさっきとはまたちょっと違う、優しそうな感じが先程よりもある。

「…ずっと見てたから」

何を?そう聞きたかったけど、何となくできなかった。彼は柔らかい表情で花壇を見て、そう言った。


「何を、とか聞かないのォ?」

「あ、えっと」

内心ひやひやしていると、荒北君がスラスラと喋り出す。


「ずっと見てたンだよな、最初はまたやってるなァ、飽きねェなあしか思ってなかったのに」

「な、何が?」

「この花壇、と、いっつも水遣ってる苗字チャン」

「あ、荒北くん」

「いつの間にか、どっちも好きになってたみたいだけど」

そう、また彼はニヤリと笑った。



「 ラベンダー:私に応えて 」





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