(そんな目で見るな)


まだ互いに掴みきれていないので、時々不安になる。否、しょっちゅう不安になる…。許し合いの付き合いは、時たま不親切だ。名前のことは、目で見た感じでしか知らない。いくら内面から作用した行いであろうとも、彼女の言いようのないあの瞳、何らかの意味があるのではないかと勘ぐってしまう。知りたくなってしまう一方で、怖いのも事実だった。情けない。






今日は風がすごい。

部活が終わったところで名前と合流する予定である。部室を出たとたん凄まじい風に見舞われ、せっかく整えた髪を豪快にかき混ぜてゆく。汗で冷えた髪。湿気た風なのでもしかしたら一雨くるかもしれない。

一際強い風がバーッと吹いた時だ。
「ごめん待たせて」
聞こえたか聞こえなかったか、巻島はよくわからなかった。とにかく風がすごい。暴れる髪の隙間から微かに名前が見えた。なんだ。名前か。笑い声が聞こえる。

「風すげーな」



風がやみ、髪が顔面にかぶさって一呼吸つく。パッと髪を割られる。「のれんじゃねーショ!」呆れた。名前はニヤニヤとしている。顔が近いので妙に照れくさい。

「編んであげようか」

ウキウキとしたような感じだ。頼まれることにした。二人して部室に戻る。風がやむとやけに蒸し暑い。そんな季節だった。もうすぐ夏がくる。
「座って」「はいはい」
名前はあっという間に編み終えて、満足したようだ。

「制服におさげは似合わないね。」
「…………」
「よし! 帰ろう」
そうだ雨が降る前に。




覆い被さっていない限り、どこへ流されていってしまっても変じゃない。覆い被さっていてさえも、視線が交わらないのだから。
だから気まずいことは歩きながら話すに限る。あの目でこっち見られたら、たまらない。天気でも建物でも見ててほしい。


「話さなきゃなんないことがあるんだがー…、」
「おう」
「………」
「別れ話だ」
「ちげっショ馬鹿」
「…………良かった」

どちらからともなく手が繋がれる。例えば、トンネルの中で会話するのが苦手だ。車の音がやむの待ちながらの妙な間を含んだ会話。でもこの話も風がやむのを待っていては、簡潔に終われない。




「…もう一回」
「アー…、好き」
「もっと」
「〜〜〜っ、好き」
「さんはい」
「だ〜〜〜お前住宅地ッショここ…」
「もっと」

揺るぎなき瞳でこっちを見るな! たまらなくなり手を引いて走り出す。

「どこ行くの!」
「名前んち」
「ねえ! 聞こえない!」


もっと吹け、風。あいつの強すぎる視線をもっと散らしてくれ。




何も知らないパウダーブルー










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