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#41



 ポッキーの日だと聞かされたのを、忘れようとしても上手くいかなかった。それだけだ。
 総悟から「好きな相手とポッキーを食う日」だと聞いて、俺は気づけばスーパーに向かい、レジ袋いっぱいのポッキーを手にしていたのだ。
 はっきり言って、好きだなんて伝えようと思ったことはない。それどころか仲の良い友人のような相手だとも言いがたいが……それでも、俺はアイツの顔が見たくてポッキーを渡す算段を立てている。
 勤務終わりに訪れた『万事屋銀ちゃん』で、俺の顔を見た家主はポカンと間抜けな面をして瞬きをした。
「……土方くん? なんか用?」
「いや、その……」
 言い淀んだ俺に、万事屋はややあってからレジ袋に目を留めた。見られてしまっては逃げられない。はっきり言って緊張して今すぐ帰りたいくらいだったが、俺は覚悟を決めて万事屋にレジ袋を渡した。
「これ……俺にくれるの?」
「……おう」
「イチゴとチョコと抹茶とバニラ…秋限定マロンクリーム、スイートポテト……ふは、ポッキーばっかり買いすぎじゃね?」
「き、今日はポッキーの日なんだろうが。全部違う味にしたんだから良いだろっ!」
「あー……うん。とりあえず上がってく?」
 靴を脱いで踏み入れた万事屋の居間は静かで人っ子ひとりいない。なんでも、ガキどもはお妙さんのとこへ遊びに行っているらしい。二人でいるのが落ち着かず、薄い茶を飲みながら落ち着かないまま視線を泳がせてしまう。と、社長机に投げ出されたレジ袋があった。妙に気になって近寄れば「あ!お前それは…!」と慌てた声が台所から飛んでくる。しかし時すでに遅く、俺は見てしまった。──レジ袋に入ったままのプリッツを。サラダ味と印刷されたパッケージは万事屋が選んだにしては珍しい、塩っけの効いた菓子に違いなかった。

2019/11/11 23:12
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