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#37
ぬるい風が吹く真夏の夜。混み合う会場で袖を引き留めたのは故意でも、ましてや恋でもなかった。嫌がらせとも違う。
理由なんか曖昧で分からなかった筈なのに、いつもより鮮やかな紺の着物を纏った土方の強気な瞳が潤んでるのに気づいた時、一瞬で本心を自覚してしまった。周りの視線が煩わしい。見せモンじゃねーぞコノヤロー。手を引いて屋台通りから外れた道を歩く。
「!? オイどこ行くんだテメェ! 声かけられてたじゃねーか、お前の好きそうな女に」
「そうだっけ?」
「浴衣着た、二人組の……分かれよっ。なんで俺がそんなの言わなきゃならねーんだ、バカにしてんのか!」
「バカにしてねーよ!」
「茶髪でタレ目の女が好みだって、前に言ってたじゃねーかっ」
「……興味ねェよそんな女。お前こそ銀さんのことシカトしてたんじゃねーの? 他人のフリだったよねアレ」
「俺はシカトなんざしてねェ。……邪魔しちゃ悪いと思っただけだ」
なあ土方、故意だし恋だったみてェだよ。お前も俺と一緒に観念してさ、二人きりで花火でも見ようぜ。
叫ばずとも青春
2019/07/29 12:50