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#30
「後腐れなくていいだろ?」
最初の夜。ヘラリと笑った万事屋がいて、シーツの上で火照った手のひらを重ねられたのがきっかけになった。
それからホテルで過ごす遊びの数時間を何度も繰り返していくうちに身体以外の場所が痛むのに耐えられなくなって、誘いを断るようになった。
自棄になって一人酒を煽った非番前夜。どうでもいい奴があの日の万事屋と全く同じセリフを言ったから、それでもいいかと試しに手を引かれてみたら、居酒屋を出てすぐの路地裏で後ろから強く手を引かれた。名前も知らない男に回されていた腕がいとも簡単に解けるくらい、加減も何もない力強さだった。
「痛てェなバカ!」
あにしやがんだ! 続けて言おうとして息を飲む。そこに立っていたのは会いたくなくて会いたかった、……もう何も言うまい。まるで夜叉が降臨したように殺気立っている。チャラチャラしたツンツン頭は「失せろ。触んじゃねェ」の言葉だけで気圧されて人混みへ紛れてしまったが、そんなのどうだって良い。燃えるような眼の色をした銀髪に抱きしめられた。俺が逃げないことを確かめるような仕草で、背中に腕が回される。
「……誰でもいいとでも思ってんのかよ」
答えるより先に抱きしめ返したのは俺の意思だった。最初の夜と同じように、万事屋がゆるく笑ってみせる。
◆ ◆ ◆
遊びの関係を教えたのも止めにしたのもお前だとか世話ねぇなと、朝が来たら隣で寝こけているまぬけ面に言ってやろうとコッソリ決めていた。ついでに、殆ど髪を乾かさずに寝たせいでさぞ酷くなるだろう寝癖を見て笑ってやろうとも。
2019/04/21 13:25