Top >> Diary
Diary ▼
#26
泊まってけよ土方。そんな風に誘うだけじゃ弱いが、今から帰るの寒ィだろと付け足せば中々の成功率だった。
「知ってるか? 夜から明日の朝にかけて雪が降るらしいぜ。路面も凍るとかで……厄介極まりねぇな」
ああ、知ってたよ。天気予報は毎日チェックしてるからね、銀さんは。
お前も知ってるとは思わなかったんだけど。
凍るとなれば、寒いなんか通り越して歩きにくくなるに決まってる。万事屋から屯所まで、コイツは抱かれて疲れた身体を抱えて帰るわけだから余計だろう。疲れさせたのは俺だし、分が悪すぎる。
(これじゃ、今日は帰られちまうなァ)
せめて今くらいはと剥いで追いやってた布団を肩まで引っ張り上げてやると、反対を向いてた土方が俺の方を向いて。おでこをピタッと、俺の首元にくっつけるようにしてきたもんだから、可愛いすぎて息が詰まる。苦しい。なんだよ、全くよォ。人の恋心も知らないでコイツときたら、
「あ、明日の朝……テメェが、道で滑って転ぶとこ見てやるよ」
……『寒いから』とだけで伝わる感情には限界があるらしい。
「ハァ? 銀さんは転びません〜。もし転んだらお前も道連れにしてやらァ」
明日の朝、大江戸に初雪が降ったら手を繋いで歩いてやろう。道連れだ。
俺はお前にすっ転んだわけだけど、お前も一緒に滑り落ちてくるってんなら悪くねェ話だし。
寒いからなんて大人ぶった言い訳も使えないくらい熱くなった顔を持て余すうちに雪が溶けて、水に流れて、それから春になるんだろう。
泊まってけよ土方。そうやって持ちかければ、そうだなと言ってくれるだろう。無愛想なその声を、まだ雪も降らねェうちから心待ちにしていた。
明日の朝、大江戸に初雪が降ったら
2019/01/28 01:05