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#24



 巡回中してたところ、散歩中の神楽と定春に会った。
 目が合うや否や戦闘態勢になった総悟と神楽に、眠たげな目で欠伸をする巨大な白。定春を片手でモフモフしつつ、上の草原から河原でバトっているのを眺めた。河原まで降りるのは気が進まない。

(今日は市中じゃなくて良かったなァ……)

 犬の鼻に煙は悪いかもしれねェと煙草を揉み消す。目と鼻の前で立ち昇っているのは硝煙だ。

「……消すのは煙草だけで良いのかワン?」
「俺の手には負えねぇ、…ワン」
「ふは、何お前。恥ずかしいなら言わなきゃいいだろ」
「うっせーよ」

 白い定春の後ろから、別の白いモフモフが顔を出した。いつから見てたんだか、ちっとも気づかなかった。

「副長さんはお散歩してんの?」
「そりゃテメェだろ。俺は仕事中だ」
「犬を可愛がる仕事かぁ。税金泥棒は違うねェ」
「あぁ? じゃあテメェ今すぐ止めてきやがれ、アイツら」
「無理無理、疲れるし。余計な怪我したくねぇっつの」
「……チッ」

 腹立たしいが、仕事柄なのか人柄なのか(きっと両方だろう)町で顔の広いコイツに真選組副長は公務をサボってたなんぞと吹聴されるのは真っ平だった。
 俺は役目を全うすべく川岸に向かおうとして、

「おい、何だよッ!?」

前につんのめったような体勢で急に動きを止められた。他ならぬ万事屋が、隊服の上着の裾を摘んできたせいだ。摘むなんて可愛いげのある加減じゃなく、ぐい、と強く引っ張る加減だ。ガキみたいな嫌がらせしやがって、こうなりゃ無理矢理突破してやると試みたが、敢え無く失敗する。……俺は準備もないまま万事屋に尻餅をつかされた。

「つッ……ふざけんじゃねーぞ、何しやがんだ!」
「言っただろうが。無駄に怪我はするもんじゃねーよ」

 だから、お前はここで俺と定春と一緒に休憩。
──な? そうしようぜ?
 笑いかけられて、予想もしていなかったその笑みに俺の心音は馬鹿正直に跳ねた。反論の言葉がすぐに出てこなかったのを都合良く解釈したらしく、俺は日陰の草っ原へ座らされる。左側に定春が伏せをすると、右側では胡座をかいた万事屋が腰を落ち着けた。いや何で俺がコイツの隣に居るんだ。風は涼しいが、肩の先や膝が当たってきて落ち着かない。身体が熱い。

「よ、万事屋……っ、うぉあァ?!」
「危ねぇなァ、石ころ投げるんじゃねーよ。お前らの投げる石ころは凶器と同じなんだよ」

 不意に飛んできた小石を木刀で軽く弾き飛ばし、纏う空気を臨戦に変えた万事屋は神楽と総悟の間に割って入っていく。

「旦那ァ、居たんですかィ。残念ながら土方コノヤローに石の一つや二つ当たったところで死にやしませんぜ?」
「フン、これだからガキは甘いんだヨ。銀ちゃんはマヨラとのデートの邪魔されたのが気に入らないだけアル」
「だ、誰が万事屋とっ、デートなんか!」

 遮って否定すれば、負けじと加勢して言い返すだろうと思った万事屋は当事者のくせに黙りこくったままだった。

「………。そうだって言ったらどうすんの? 土方くんは」

 「……旦那?」「銀ちゃん?」二人の呼びかけには応えもせず、俺だけを肩越しに振り返って告げる。

「……公務中だ」
「今は休憩だって言っただろ。聞いてなかったんですかー?」

 そんなのテメェが勝手に決めたんだろうが。言いかけた文句の気配なんて知ったことではないのか、定春はすっかり寝息を立てている。変わった意趣返しをしやがってクソ天パめ、見境なしかよ。俺だってこの状況から離脱して寝れるモンなら寝ちまいてぇよ。
 ムカつく挑発面だけならいつも通りだが、売り言葉へ返す言葉は困って焦って巧く出てこない。
──あ〜あ、つまんねぇの、今日のところは勘弁してやるヨ、腹ァ減ったから団子でも食うかァ。
 連れだって町へ出向く背中を引き留める余裕もない。俺から余裕の二文字を奪った男は「今日はあちィなァ」と丸きり普通の顔をして戻ってきたが、俺の逃げ場がないことは分かりきっていた。

「アイツら居なくなっちまったぜ。土方くんも追いかけなくていいの?」
「……今、この状況でか」
「追いかけたって止めねぇよ。リード握ってるのは俺だから、どこ逃げたって捕まえてやらァ」
「敵前逃亡はしねェ主義なんだよ」

 定春の隣で寝転んで目を閉じれば、流石は副長さんだ、そうこなくっちゃなァと微かに笑い声が聞こえた。あからさまに嬉しそうな顔しやがって、寝てるから見えてねェと思ったら大間違いだ。それくらいのこと簡単すぎてバレてるんだからな。



白昼堂々愛情表現


aimai様より表題お借りしました。

2018/08/30 01:09
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