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#15 からかい上手の……



 雨降りの新宿かぶき町で、ぼんやり雨宿りなんかしている万事屋に会った。会う約束(デートだなんて言わねぇぞ俺は)をしていた日は明後日だったが、こうして顔を見れば無視なんて出来ずに、通り過ぎる筈だった足は勝手に止まっていた。

「なんだ、傘持ってねぇのか万事屋」
「おう、だから入れてくんね?」
「? ああ……」
「最近忘れっぽくてよぉ」
「もう老化が始まってんのか……頭もフワフワの白髪だもんな」
「これは白髪じゃねぇから! 銀髪だからっ!」
「怒鳴るんじゃねーよ、近ェんだから!」
「今もさ、ド忘れしてる言葉があんだよなァ」
「ド忘れ……? どんなことだ」

 万事屋は不満そうに唇を尖らせている。告白されて日も浅いが曲がりなりにも恋人なんだし、俺の知ってる言葉なら教えてやりたいと、そんな親切心が湧いた。

「今、二人で一つの傘使ってるこの状況って何て言うんだっけ」
「……え…?」
「ちょっと忘れちまってさ。土方くんは知ってる? 教えてくんね?」
「あ……あー、その…ぁぃぁぃ、」
「え、何? 聞こえねぇなー」
「…っ、だからっ」
「あ、思い出したぁ! 相合い傘だ〜!」
「テメェ絶対ぇ忘れてねーだろ! ……ほら、雨も止んだぞ。俺は向こうだからな、風邪引かねぇ内にさっさと帰れよ」
「………」
「万事屋?」
「あー……いや、帰り道ド忘れしちまったな。酒飲みゃ思い出すかも」
「ったく……少しだけだぞ、夕飯前に酔っ払うな」

 ガキどもに迷惑かけんじゃねぇと釘を刺せば、分かってる分かってると気の抜けた顔で笑う。
 雨の上がった江戸に涼しい風が吹けば、寒ィなぁなんて嘯きながら小指が触れた。ヘタレというのか素直というのか、バレバレなのに見えないフリをしているのは俺も一緒だ。帰り道を忘れたフリして寄り道するのだって、たまには良いかもしれない。
 ──触れた小指が離れる前に握ってやると、そいつは素知らぬ顔をしながら手を繋いできた。

2017/10/03 00:16
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