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#6
時期にはまだ尚早だが、蚊に刺されたらしい。掻くと悪化して余計に痒くなると山崎に聞いたから、赤くなった首筋を気にしないようにして過ごしていたのだが。
「え、土方くんソレどうしたの?」
首んとこ、と差し示されて決まりが悪いのは、何かというと張り合って言い合いになるコイツのせいだ。コイツ以外に言われたのなら「虫に刺された」くらい簡単に言えるんだが、「ええっ? ニコチン中毒の血ィ吸うとか物好きな蚊が居るんだな」とか絡まれたら面倒だった。俺はれっきとした公務中なんだ。
「テメェには関係ねェだろ」
結局、明確な答えを示さないまま踵を返して立ち去る。
いや、去ろうとした。コイツ──万事屋に腕を掴まれなければ。
「おい待てよ、誰にやられた?」
「ああ?」
チンピラのようにメンチを切っても万事屋は引かなかった。不機嫌な面構えが、俺の顔を真正面から見据えていた。
「誰にって、」
「あ、副長! 置いてかないで下さい、探しましたよ」
シャカシャカ鳴るビニール袋を提げた平和的な声が、俺と万事屋に割って入った。
そういや、山崎がコンビニに行くって言ったから煙草を買ってきて貰ったんだ。万事屋に会ったインパクトで忘れかけていた。
「ジミー君さぁ、土方のコレ知ってんの」
「ああ、赤くなっちゃってますよね」
「そうだね。いつ付けられたのか知ってる?」
「一昨日ですかね? その跡が付いた時は俺と一緒に居たので」
「……お前と? 土方が?」
「そうですよ。副長は気づいてなかったみたいですけドゥブッ!」
「あーあーあー! 聞きたくありません〜そんなコト〜! 何それ自慢?! どうせ俺は関係ねーけど腹立つから殴ってもいいよね!」
「おい万事屋っ、やめねェか!」
ガキみたいに往来で騒ぐ万事屋を羽交い締めにして止める。山崎を足蹴にするのは俺もよくやるが、今日はこれから近藤さんのところへ報告に行かなければならないから使えないボロ雑巾にされると困るんだ。何が気に入らないのかと考えて思い当ったのは俺の一言。
『テメェには関係ねェだろ』。
「虫に食われただけだっつの!」
「ああ? 俺が見てねェ時に横から食いやがったんだな地味のクセに!」
「ワケ分かんねー事言うな! 蚊だよ、蚊に刺されたんだ!」
ああクソ、何なんだコレは。万事屋に絡まれるのを回避する予定が、万事屋と怒鳴り合う羽目になっている。殺気を飛ばされた山崎は顔面蒼白だし、俺だって正直、赤の他人だったらどんなにか良いだろうと思う。
「……蚊?」
しかし、辛うじて聞く耳を持っていたらしい万事屋は、気の抜けた声で鸚鵡返しをしてきた。
「そうだよ。どうしたんだテメェ」
「………いや、うん」
開放された山崎の手からビニール袋が落ちて、中から転がり出てきたポケット〇ヒが万事屋のつま先に当たって止まった。
「蚊……蚊かよ…ム〇だよなぁこれ…脅かしやがってコノヤロー……」
羽交い締めにしたままだったが、万事屋の身体からは既に力が抜けていて、殺気も消え失せていた。
「脅かされたのはこっちだ。なんで急に怒ったんだよ」
「…え? あー、なんでだろ…何かこう、ついムカっときて」
ついで殴らんで下さいよと恨み言が聞こえる。山崎はボロ雑巾ではなくいつもの山崎に戻っていた。万事屋を解放して、新品の煙草を内ポケットに仕舞い込む。
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中途半端だけど終わる
「俺と一緒に居たので」「なん…だと…」
をやりたかっただけ
2017/06/05 20:34