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ありがとうございます



坂田銀時には現在、“恋人”と呼べなくもない人物が二人いた。
表向きはどちらにも変哲なく接しているが、声をかける時に一人は下の名前で、もう一人は苗字か「多串」という勝手につけた呼び名を使っている。名前で呼んだことなど一度もないし、呼ぼうとしたこともなかった。
初めにそういう関係だったのは「名前」で、「多串」はただ身体の相性が良かったから付き合い始めただけの、別にいつ切り捨てても構わない相手だった。「名前」とは違って、孕まないというのも都合がよかった。


「俺とどっか出かけたいー、とかさ、ねぇの?」
「……解りきった事をわざわざ聞くのか、テメェは」

今現在銀時の目の前にいるのは「多串」で、回るベッドのホテルで煙草を吸っている。否、吹かしているという方が近いかもしれない。致した後の掠れた喉には煙が少し沁みるらしい。
じゃあ何故吸うのかといえば、きっと染みついた習慣と、間を持たせるのに丁度いいからだ。こちらを見ようとしない「多串」、否──土方十四郎から、そんな思考が垣間見える気がする。

自分はいわゆるマダオだと思う。人にそう言われても、断固否定しようとは思わない。
だが、別に悪いことをしているという自覚はなかった。セックスも割り切って生きてきた自分とっては、やはりこの行為も悪いものだとは思わない。
けれど、女は責任転嫁するのが得意だから、きっと「多串」の存在が明らかになれば被害者面をするのだろう。
そこのところは面倒だと思うが、「名前」は「多串」と対照的に優しい音色で銀時に話しかけるのが常だったし、行きたい場所へ連れて行ってくれとねだったりもした。それは女たる所以なのだろうし、可愛いらしいと思わないわけではない。


「俺ァもう出るぜ。書類残ってんだ。勝手に引っ張り込んだどっかの天パのせいでな」
「…………」

いつもなら悠長な言葉が口からつらつらと出てくる銀時が今日に限って何も思いつけないのは、今日話そうと思っている出来事の所為だった。
それにしたって妙な沈黙が続いたので、目の前の相手は会話が収束したと結論づけたらしい。
ベッドから下りると、シャツを羽織っただけの身体に隊服の黒を重ねていく。
結局、銀時が逡巡の末に口を開けたのは、土方が下着もスラックスもスカーフも身につけた後だった。


「……あのさ。
結婚ってよ、どう思う?」

身体の相性が良かったから付き合い始めただけだとか、女とは違って、孕まないのが都合がよかっただとか、そんな言い訳を使うのは今日で終わりだ。「名前」と話をしたあの日から、銀時は終わりにすると決めていた。

「…何だ突然」
「こないだ会った時にさ、」
「ああ、彼女か」

安っぽいホテルの一室には、当然銀時と土方の二人きりである。
唐突な報せだったが、土方は十言われなくとも解るとばかりにそう言った。衒いのない音色だった。


「……知ってんだよな、お前」
「知ってるも何も、俺が言った時にそう言ってただろ」
「ああ。多串くん、それでもいいって言ってくれたっけ」
「……だが、もう」
「土方!」

『多串じゃねえ』と訂正する声を聞かなくなったのはいつからだろう。

「…なんだよ。怒鳴らなくても聞こえる」

その次の言葉を聞きたくないと、強く思ったのはどうしてだろう。


「式はいつだ。祝儀くらいはくれてやる」

瞬間、グワンと目が眩むような錯覚に襲われた。背を向けたまま、あまりにもあっさり言われ、戸惑うより前にわけが解らなくなった。
土方にとってはそんなにあっさり軽く言えることだったのか。心に重い重い澱みが溜まっていくのを感じる。
普通の友人同士なら、きっ?C


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ここまで。
中途半端にも関わらず読んで下さった方ありがとうございます;

ちなみに『?C』っていうのは、消失した時に必ず出てくる文字です。
最後まで書き上げたものがこんな二文字によって無に帰されてしまうのがなんとも……。

2015/10/22 19:29
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