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Diary 

11月11日



「いや、そんなに悩む事でもねえだろ。ポッキー食えばいいだけじゃねぇか」
「甘いぞトシ! ポッキーの日はポッキーゲェムが重要なんだ」
「…なんだそれ」
「両端からポッキーを食べて、多くかじった方が勝ちなんだ。ここはやはりカッコよくキメたいところでなぁ……そこでだ!」
「…なんだよ」
「実はさっきコンビニで買ってきたんだ。苺みるくポッキー」
「……で?」
「お妙さんとする前に練習しときたいんだよなぁ。食べる早さとか…」
「……断る」

言いながら煙草を靴裏で揉み消した。
甘いものは得意ではないし、何より味のチョイスがあまり頂けない。苺みるくなんて見せられては、昨日酒呑み処で偶然居合わせたばかりのクルクルパーマを嫌でも思い出してしまう。飲みの席で、往来の口争いとは違う顔を見せるようになったのは、いつからだったか。
土方が来る前から既に酒精にまみれた瞳をしていた男は、その日も喧嘩をふっかけてくるというよりは気さくに近い形で自分に接してきて。先月は自分の誕生日だったと話し、来なかった事を指摘した上で、ばかやろーと呂律の怪しい舌で文句を言われた。
酔っ払いの戯言だが何だかカチンときて、そもそも誕生日会があった事を知らない、大体俺が行ったとしてお前が喜ぶのかと言い募れば、『当たり前だろ! 夜中に突然「来ちゃった☆」って訪ねて来られたとしても許すわ』などとよく分からない例え話を聞かされた。

「つーかぶっつけ本番だっていけるだろ。拒否されない限り」
「え〜? ……じゃあ一回!一回だけでいいから!先っぽだけでいいからッ!」
「とりあえず黙ってくれ。アンタの声デカいし妙な勘違いされ、」
「おいゴリラ今なんつった。先っぽだろうと許すワケねぇだろ、アア?」
「よ、万事屋?」

突然、間に割って入った白い男に思わず瞠目した。
白い男──坂田銀時は、間に入るのとほぼ同時に土方の肩に回されていた逞しい腕を剥がし、自分の方に引き寄せた。
土方としては突然腰に腕を回されて身動ぎしにくい事この上ない。不機嫌な眼差しで睨むが、当の本人は立ち退く気は更々ないらしかった。しかし、どうせならこの状況を利用してやろうという考えが閃いた。

「……丁度いいところで会ったな。一つ頼みたいんだが、近藤さんがなんとかゲェムしてぇらしいから相手してくれ。あと手を離せ」
「なんとかって…アレか、ポッキーゲームか?あと手は離しません!」
「………。知ってんなら話が早ぇ。万事屋だけあってしょうもない事は詳しいんだな」
「馬鹿にしてんのか。つーかゴリラとポッキーゲームなんかしねぇからな俺は。何が悲しくて野郎とキスなんか」
「……キス?」

話が飛躍しているように聞こえるのは気のせいだろうか。

「いや、ポッキー食べるだけだけど。お前好きだろ、菓子」
「いや菓子は好きだけどよ。……え、ゴリさんコイツに説明してねーの?」
「したぞ? ポッキーを多く食べた方が勝ちなんだって、総悟がそう言ってた」
「ヘェ、ドS皇子がね……」

肝心のところ──言わずもがな食べた結果どうなるのか、だ──を明らかにしていないのは偶然か故意か。

「じゃあこうしようぜ。まず俺が手本を見せる」
「ああ。良かったな近藤さん」
「ナニ他人事みてェな事言ってんの。お前がやるんだよ」
「…は?」
「お前と俺で、ポッキーゲームの真髄を見してやろうじゃねーか」
「い、いや真髄って俺ゲーム自体、その、今知ったし!」
「ヘーキだっつの。リードしてやるから。先っぽだけの男にはならねェから」
「いや意味分かんねぇ事言ってんじゃねーよ」

いいから流されてほしい。
片想い相手の目の前で近藤とポッキーゲームなんか勘弁被りたいのだ。しかし渋るのも当然だと分からないわけではない。そこで別の手を使う事にした。

「一か月と一日遅刻の誕生日プレゼントってのは?」

土方の斜め後ろで、『え、万事屋誕生日だったの!?』と驚く声がするがこの際無視を決め込む。

「………。図々しいヤツだな。大体それがプレゼントとやらになるのかよ」
「なるなる! ケーキと同等、いやそれ以上の価値だな」

銀時は一人で大きく頷く。
この男にとって甘味より価値あるものが自分と真髄を見せる事らしい。それを理解した時、土方は満更でもないような気になった。だが、

「俺甘いもん好きじゃねーし。この時点で俺が不利だろ」

どうせやるなら対等の立ち位置を望みたい。
銀時は下らないと一蹴せず、そうだなぁと思案顔で呟いた。

「じゃあ使わないでやろうぜ。要は甘くなきゃいいんだろ?」
「え、……ああ、甘くなけりゃな」

ニコリと笑ってみせる銀時に鼓動が早まったというのは機密事項だ。
その所為で反応が遅れたが、とにかく頷いた。
よく分からないまま頷き、向かい合い、……そこで事態のおかしさに気づく。

「まて、これって」
「多く食べた方が勝ちな。はいスタートぉー!」
「ん、ふぅぅ……っ!」
「トシぃぃぃ!?」

近藤の声が近くで聞こえるが返事は出来ない。口は愚かすぐに手のひらで目を隠され、視界を遮られてしまったのだ。暗い中、男の柔らかい唇の感触と濡れた肉厚を堪能する事しか許されない。
意義を申し立てたいが、常より酸素の不足した頭はうまく動いてくれない。これは勝負だったと気がついてからは、脳の指令は意義よりも『多く食べる』事に重点を置きだしたらしい。証拠に目隠ししていた手のひらが離れても、土方の薄い瞼はくったりと閉じたままだった。
舌が引いた隙をついて、自分から相手の口内に舌を差し込んだ。しかし酒の席以外ではいがみ合いする仲である。噛まれたらどうしようという危惧があったが、一瞬で杞憂に変わった。やんわりと受け止めた銀時の舌は、土方の動きに合わせるように絡んでくる。舌先を互いにくすぐり合えば、くすぐったいのと愛撫のような触れ合いが恥ずかしいのとが綯い交ぜになった。頬の紅潮するのをひしひしと感じる。
腰と頭を引き寄せられて交わりが深くなった。息継ぎの合間で銀時の唾液を飲み込まないと狭い口咥内から溢れてしまいそうで。コクンコクンと喉を動かすと、銀時に頭を微かに撫でられた。

「っ…は」
「はぁっ、はぁっ……」

ようやく開いた視界には涙の膜が張って潤んでいる。
零れたそれを手の甲で拭ってから、辺りに自分たち以外の誰もいない事に気がついた。

「近藤さんは……?」
「…さぁ? 先に帰ったんじゃねーの、長かったし?」
「う、うっせぇ黙れッ」

本当は土方に目隠ししている最中に銀時が邪魔者は帰れのジェスチャーとオーラを垂れ流しにしたからなのだが、何も言うまい。
近藤がポッキーゲームを実践しようがしまいが、どちらでも良いのだ。
ただ向かい合い顔を近づけた顛末が分かった時点で、実践したらどうなるか理解できそうなものだけれど。

「プレゼントありがとよ。屯所まで送ってくから」
「ちょっと待て、どっちが勝ったんだ」
「そりゃまァ、土方って事で。自分からきてくれるとは思わなかったしよ」
「………フン」

どう考えても勝者の方が不慣れだった筈だけれど、とっくに成人した大人の食えない衝動だ。流された土方も押し切った銀時も、きっとこの想いに続きがある事を知っている。
だからつまり、これは恋という真剣勝負よりも幼い、その狭間の出来事────。



end.


タイトルは『狭間の出来事』でお願いします
粗削り感が拭いきれてませんが、読んで下さりありがとうございました……!

2014/11/15 12:40
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