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#44 - 左銃
「まったく、お前のせいでスーツが台無しになった。どこの組のモンだ」
「いやアレはお前の客だろ銃兎」
「はぁ? 知らねぇし顔も見覚えねぇぞ」
「はぁ? じゃあただ絡んできただけかよ……どうせなら天気くらい選べや」
「わざと仕掛けてきたのかもしれませんよ? 悪天候の今なら勝てるかもと」
「ナメクジ共が」
「その程度で勝算を見積もるなんて、ある意味賞賛しますけど……で、この後どうしますかリーダー? このまま事務所まで歩きます?」
「ウサ公連れてホテル行くわ」
「バーカ、舎弟呼べ」
他愛もない会話をして、舎弟が来るまでの時間を潰す。雨とアスファルトの湿る匂いがした。
「銃兎の傘いらねぇ。こっち来いよ」
「おい、狭いし近い」
「近づかなきゃできねぇことがあんだろ」
雨で冷えた唇を重ねると、柔らかな感触に僅かな熱が灯った。左馬刻の髪からポタリポタリと落ちてくる雫が頬に当たる。思わず前髪を後ろに撫で付けてやると、ねだられていると受け取ったのか左馬刻が笑みを深めて、角度をつけたキスをしてくる。長い睫毛が瞼を掠めた。互いの体温が混じり合って、冷たかった口づけがぬるくなっていく。左馬刻が忌々しそうに舌打ちした。
「……だぁクソっ、焦れってぇ。シャツが貼り付いてうぜぇんだよ……事務所はやめてウチ直行するか。シャワー浴びて二人ですっきりしようぜ?」
吐息がかかる距離のまま誘い文句を口にする。バトルの後で雨になんか打たれたせいで熱が余計に恋しくなるのかもしれなかった。「お前のコーヒーも飲みたい」とだけ返すと、左馬刻は一瞬きょとんとした顔をしたけれどすぐに笑って、再び唇を重ね合わせた。
2022/06/15 10:44