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#40 - 左銃



 いつもみたいに胸倉掴んで睨み合いしてる時だった。ふと意趣返ししてやりたくなって、左馬刻の綺麗で凶悪な顔に向かってニヤリと口角を吊り上げる。
「キスできそうな距離だなぁ左馬刻様?」
「じゃあするか」
「え、」
「文句言いっこなしだぜ」って左馬刻の綺麗な顔が今より更に近づいてきて思わず目を閉じる。本当に唇が触れて重なった。左馬刻って男ともキスできたのか。というか、俺にキスなんかできたのか。意趣返しのつもりがカウンターを盛大に食らった。左馬刻の唇、やわらかい。
「おい銃兎、もうちょい力抜けや。こんなもんじゃねぇだろ」
「っ、」
「んだよ緊張してんのか? だせぇな」
「ァア?! してねぇよクソが!」
「おうおう、じゃあできンだろ。そんな唇尖らせんじゃなくて普通にしてろ……そうそう、うまいぜ」
 力を抜くって言われても、左馬刻に────好きな相手にこんなことされてる時点でリラックスするにも限度があるが、なんとか先端が硬質にならないように善処する。ウサちゃんの唇やわらけぇなって言われて、胸を別の意味で掴まれた気分だった。いや、左馬刻にはとっくに俺の心を握られてる。
「っ、ん」
 ぬるぬるしたあったかいものが唇を撫でた。目を閉じてるから分からないフリをしたいところだが、分かってしまう。左馬刻の舌だ。左馬刻が、煽ったりキメるときなんかに、ペロッと出される、赤い舌だ。なんでそんな魅力のある左馬刻様の舌が俺の唇なんか舐めてくるんだろう。濡らすように優しく舐めてくるから、左馬刻にそんなつもりがなくても身体が熱くなってしまう。何度も濡らされていくうちに唇の合わせが湿ってぬるついて綻びが出て、左馬刻の舌が、咥内まで入ってきてしまう。あう、違う、ごめん、そんなつもりじゃなかったのに、左馬刻、左馬刻。弁明も謝罪も心の中じゃ聞こえるはずもなく、滑りこんできた俺と違う厚みの舌が、俺の舌の感触を探るように絡んでくる。重ねた唇を軽く吸われたり、ぴたりと隙間なくくっつけられて、たまらず俺も舌を左馬刻に差し出していた。舌同士が待ちかねたように、ぬるぬる絡み合う。どうしよう、言い訳なんかできないくらい、すごく興奮してしまっている。左馬刻の唾液をスーツに零さないように何度も飲みこんだ。
 頭を撫でられたところで、いつのまにか左馬刻の左手で頭の後ろを支えられて、このディープキスがやめられないようにされていることに気づく。俺様な左馬刻が満足するまでは解放されないらしい。離れようとすると「だめだ」って咎めるみたいに強く塞がれてしまう。左馬刻の体温が熱いくらいだった。汗ばむくらいの熱に侵されるのは、俺にとっては心地いい。でも、もうそろそろ満足してくれないと、俺のほうがもっと欲しくなりそうで困る。
「さま……っ」
「じゅーとぉ」
「んぅ、ふぁ」
 耳元で名前を呼ばれて恥ずかしい吐息が漏れる。脳髄に直接流し込まれるような低くて甘さのある声音に、腰の奥がきゅんと疼いた。左馬刻の声って、どうしてこんなに艶っぽく聞こえるんだろう。
「……かわいいぜ。もっとしようなウサちゃん」
「ッ!?」
「おいコラ逃げてんじゃねぇぞ」
「っ、ちょ、まっ、待ってくれ、これ以上は無理だ、他を当たれ! 煽った俺が悪かったからっ」
「ア? 他……? テメェ以外に誰とすんだよ」
「俺の知らない女とか、もしかすりゃ男だって……とにかくお前と今みたいな……そういうの、したい奴なんか捨てるほどいるだろうが!」
 精一杯に分かりやすくしたつもりの説明に、左馬刻は納得してくれたらしい。なるほどな、捨てるほどいんのか、俺様モテるからなと凶悪な色気を孕んで笑う。
「そんで? それの何が問題なんだ。今この部屋にウサちゃん以外の奴なんかいねぇだろ。銃兎がいい」
「だからって、こんな……」
「俺とすんの、嫌か?」
 そんな聞き方してくんのはずるいだろ。俺の答えなんか決まってる。
「…………いや、じゃ、ない」
 白状させられた瞬間、左馬刻の顔が近づいてきた。睫毛が瞼に触れる。くすぐったい。
「っ、ん、」
 今度は最初から唇を開いて、左馬刻の舌を受け入れていた。キスしながら、頭を撫でられる。それされると愛されてるみたいで、嬉しいけど泣きたくなるよ。舌同士を擦り合わせて、口の中の粘膜をなぞられて、舌の裏をつつかれて、ぞくぞくする感覚に震えていると、左馬刻の指先が俺のシャツの上から左胸に手を置いて、笑った気配がした。くそ、笑えよ。さぞかし俺の心拍数は上がっていることだろう。
「ふ、……じゅーと、」
「んぅ、っふ、……はぁ」
 すりすりと手のひら全体で胸を揉まれる。乳首に触れそうで触れてくれないから焦れてしまう。左馬刻の唇が離れて、赤い舌で唇を舐める。その仕草に目が釘付けになる。左馬刻の親指の腹が、乳首を掠めた。キスの余韻でぼんやりとしていたところに突然の刺激を与えられて、思わず上擦った声が出る。慌てて両手で自分の口を押さえると、今度こそ左馬刻の楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
「へぇ、気持ちいいのかここ」
「ちがう、くすぐったいだけだ!」
「ウサちゃんの嘘つき」
「あっ! ひ、引っ張んなよバカ!」
「痛いか?」
「わかんねっ、あ、」
「ほら、これなら分かるか?」
 左馬刻が両方の乳首を摘まんで捻る。ぐりぐりと押し潰されたあと、爪の先で弾かれた。左馬刻の手が俺の胸を撫でるたび、そこからじんわりと快感が広がっていくようだった。くすぐったいだけじゃない。左馬刻の手で感じてしまう自分が恥ずかしくて、左馬刻にバレたくなかったから必死に声を抑えようとした。
それでも左馬刻の指が動くたびに喉の奥からは勝手に音が漏れていく。
「っ、ふっ、んぅ、っ、ーーっ」
「おい銃兎、我慢すンな。聞かせろ」
「やっ、ぁ、さまとき、そこ、もう」
「やめてほしくねぇだろ」
 左馬刻の言葉にコクコクと何度も首を縦に振っていた。恥ずかしいのに、もう止められない。左馬刻は満足げに笑うと、俺をソファに押し倒した。仰向けに寝転がされ、左馬刻が覆い被さってくる。
「もっとしていいよな?」
 チュ、チュ、と首筋に沿ってキスをされながら乳首をきゅっと指先で挟まれた。くりくり、つんつんと弄られ続けるうちに、かたく、しこってきてしまう。身体がじくじくして熱を持ってくる。腰の奥も疼いている。そんな俺を見透かすように左馬刻が囁いた。
「俺様が満足するまで付き合えよ」
「っ、」
「お返事はどうした? ウサちゃん」
「……分かったから、……ぅ、…さまとき、ッ」
 左馬刻はご褒美だと言わんばかりに俺の首筋に強く吸い付いた。きっと痕が残っただろう。それから俺の耳元まで顔を寄せて、熱い吐息と一緒に吹きこむ。
────好きだ、じゅーと。
 ああダメだ。ヨコハマの王にこんな風にねだられて逆らえるやつなんかこの世界にいないんじゃないかと思う。全員堕ちるだろ。
 甘ったるく、舌足らずに呼んでくれやがって。
「じゅーと。聞いてんのか? 忘れたら怒るからな」
「……ああ、覚えとくよ、ちゃんと」
 綺麗な思い出になんのかな、これ。ならなくても良いか。
 格好いいのに可愛げまであるのがそもそもずるい。本命以外にそんな声聞かせたら駄目だろ、何人も泣かせて困る羽目になんぞ。
今は溜まってて聞いちゃくれないだろうから、左馬刻が満足したあとに言ってやろう。安心しろ左馬刻、俺は一人で泣くのが上手いんだ。

2022/04/17 11:21
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