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#39 - 左銃



 エイプリルフールを利用してチームの結束を強める目的だったとか。ティラノサウルスの肉が出てこない食事を振る舞ってもらい、理鶯のキャンプ地から帰る道すがらだった。雑談の延長で「左馬刻のコーヒーなら毎日飲みてぇな」なんて口を滑らせてしまった。本心だったが恥ずかしい。
「左馬刻、今のは」
「そういうこと言ってんとな、勘違いされんぞ」
 左馬刻はあからさまに不機嫌なようだった。俺の方を見ない。今日はエイプリルフールだが、冗談が過ぎて怒らせてしまったらしい。冗談を言ったつもりはなかった、本心なんだと告げるわけにもいかず困る。俺は馬鹿か、こんな日にうっかり本音なんか口に出しちまって。
「っ、」
不意に左馬刻が俺の手を軽く握った。そのまま歩き出すものだから引っ張られる形でついて行く。左馬刻は無言で、ただ手だけが熱い気がした。繋いだ手から心音が伝わらないことを祈る。
「理鶯が罠増やしたんだってよ」
 それは初耳だった。嘘か本当かは分からない。分からないまま繋いだ手に力を篭めたのは、気まぐれでも良い、もう少しだけ、と思っているから。
「……そ、そうか」
「ちっ……バカウサギ」
 いつもより湿った声を出した左馬刻が俺の手を引いた。身体ごと引き寄せられ、頬に唇を押し当てられたと気付く。ちゅっと軽いリップ音が耳元で響いた瞬間、俺は思わず固まった。
「っ、っ、っ」
 言葉が出ない。暗い中でも顔が真っ赤になっている自覚はあった。
「お前な、避けろよ」
 左馬刻の指が悪戯しただけみたいに、今キスした場所を撫ぜる。拭いたつもり、だったりするのか。そこで初めて避けるどころか抵抗しようともしなかったことに気づく。
 左馬刻はどうしてキスなんか。俺達は勿論付き合ってるわけじゃない。仲間であり友人というだけだろう。それなのに、どうして────グルグル混乱しているうちに山道の攻略が終わったらしい。流石に手も解放されたが、遅すぎる。革手袋の下で手のひらが半端なくしっとりしてやがる。全部左馬刻のせいだ。
「……家で続きすっか」
 目が合ってようやく気づいた。全部、左馬刻が俺に向けて用意した嘘なんだってことに。チームとしての結束を高める嘘、ではない。
「どうする?」
「…しな、い」
声に出した俺はよほど緊張した顔でもしてたのか、隣で遠慮なく笑われた。

2022/04/17 11:17
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