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#27 - 左銃



 何かにつけて振り回されるし、喧嘩もしょっちゅう。手の早いアイツに殴られた場所が腫れたことだって一度や二度じゃない。噂によれば若頭様には見合いの話もきているようだし、もういいかと思った。アイツにとっても潮時だろう。連絡を絶って居住を移したのは俺の勝手だった。裏切ったと思われても仕方ない。一人に戻りたての生活だが何とかやっている。慣れないせいか、棚にホコリが溜まる一方だし、食事はコンビニ飯と惣菜まみれになっていた。糊のきいたシャツに袖を通す朝には溜息が出る。皺ひとつなくても、日常がよれて色褪せている。今更気づいたって遅いけど、愛されていたのかもしれない。ときどき、ガキみたいに無邪気に笑うのが好きだった。
 仕事の帰り。部屋で下手くそなコーヒーを飲んでいるとインターホンが鳴る。モニターに映し出された男に心臓の止まる思いがした。どうして、なんで、ここが。
「ウサ公の新しいオウチを見に来てやったぜ。秘密にしようったって無駄だわ」
「……さまとき、ッ……」
「寝室が変わってねぇか確かめてやるよ。……もしベッド二つあったりしたらどうなるか分かってンな?」
 左馬刻の汗の匂いが生々しい。記憶に染み付いたまま、忘れられない匂い。声。左馬刻の全部が触れられるところにある。褪せた世界の彩度が目まぐるしく上がって、自分から遠ざけたくせに俺は馬鹿になっちまったようで、答えるより先にキスをして、息がしづらくなる幸せを味わった。

2021/09/01 20:55
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