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#25 - 左銃
赤く火を灯した先端は喫煙時、約1000℃になるという。くゆる紫煙を一瞥すると、一息で吸った。肺に満たされる。煙草を吸う姿を見るともなしに眺めていた銃兎に、口内に溜めた煙を、ふうと吐きかける。前にもコレをした夜があった。あの夜と同じような咳き込みを聞きながら、わざと銃兎に尋ねる。
「なあ、意味はわかるか?」
「わ……わかりますよ……!」
頬が真っ赤だ。もはや睨みつけるようにして答えてくる年上の恋人が可愛くて、耐えきれずに笑った。分かってなかったウサちゃんがお利口になったもんだなと揶揄する。誰が教えたと思ってる、俺だって知りたくなかったけどお前が云々。小言の多いウサギを静かにさせるためにキスをした。煙草は暫くおあずけ。
○●〇〇
「左馬刻って、本当に俺のこと好きなんだな……」
「……んだ銃兎、まだ信じてねぇのかよ。しまいにゃ抱くぞオラ」
「もう抱かれただろ!触んのやだって……ぁん、ひろげないで、ゆるくなっちまってるから……いや、信じてますよ?信じてますけど、こう……やっぱり、信じられないというか。ああ、嬉しくてって意味でな」
さっきまでエロい声でアンアンしてたくせに真面目な顔をしてそう付け足してくるマル暴の警察官に、そうか、と思う。
そうか──付き合い始めてしばらく経ったが、信じられないと。ただ、それは自分も同じかもしれないと左馬刻は思い直した。
「じゅーと」
「はい、なんです?」
「好きだ」
「え……ぁ……」
「ンだその反応」
「い、いや、不意打ちはその……破壊力が…高いというか」
銃兎がもごもごと不明瞭に言って、左馬刻の胸に懐いてくる。びっくりしただけ、と体裁が整ってるんだかそうでないんだかな釈明をした。
「こっち見ろ銃兎」
「ッ、ちょ、左馬刻」
顎を捕らえて、強制的に自分の方を向かせた。翡翠色をした瞳の中で戸惑ったように揺れているマゼンタピンクを見据え、言うぞと一言。
「銃兎が好きだ。お前のことを……愛してやる。誰にも文句は言わせねぇ」
「へ、ぁ……? ふ、なんだそれ、…んふふ、それじゃただの俺様じゃねぇか……」
「バカにしてんのか!」
「してませんよサマトキサマ。……私も、好きです。貴方のことが誰より特別で、大好きですよ」
「………まだ言いてぇこと隠してやがんな? タメにならねぇぞ」
「……左馬刻が俺のこと嫌いになっても、離せなくなりそうで……それが少し怖いよ、俺は」
「……そんな日は来ねぇ。死ぬまで俺のもんだ」
1000℃なんか目じゃない覚悟がある。熱に一番近いところで呼吸した左馬刻の恋人は、少し黙ると「そうだな」と僅かに掠れた声で返した。
いま俺の顔見るな
2021/08/16 17:58