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#21 - 左←銃



「美人と飲む酒とか飯は美味いって言うけどよ。煙草も美味いんじゃね?」
「煙草……? そうだな」
 こうして自宅のベランダで景色を眺めるのも好きだし、左馬刻と並んで吸う煙草は格別だと思う。単純に左馬刻の顔の造形が整っていて綺麗だからなのか、左馬刻の顔も声も立ち姿から生き方まで全部好きだからなのか、その辺りの詳細な事情については敢えて触れないでおく。
「銃兎もそう思うか?」
「……ええ、否定はしません」
「チッ……俺様にも試させろや」
「おい、」
 返事なんか聞かずに煙草の先端を触れさせてくるのにも、すっかり慣れてしまった。試すってここ俺の家だぞ。つまり俺しか居ねぇんだが。有害な煙を吸った左馬刻はいつもよりゆっくりと吐き出す。味わっているようだった。たしかにうめぇなと呟く声に顔が熱くなる。それを言うのかよ、今。人たらしのヤクザめ。
 一秒でも早く日常を取り戻したくて「食べた後の一服って美味いよな」と当たり障りない雑談で凌ごうとしたが「そういや飯も美味かったな」と言われる。まずいぞこれは墓穴を掘ったか。返す言葉もなくて下を向いて黙る。左馬刻が俺の反応を見て笑ったのが分かった。畜生、笑いたくば笑え。
「で、ウサちゃんはどこの美人と一緒に美味い煙草吸ったんだ?」
「……鏡で見てこいクソボケ」
「へぇ……他の野郎にそれ言われたらブッ殺してたかもな」
 物騒な予定を口にするくせに、左馬刻様は一等ご機嫌だ。年上を散々からかいやがって死ね。このあと晩酌するんだぞ?
 俺は酒だって楽しみにしてたのに、味が分からなくなったらお前のせいだ。今日こそは泊まってくってごねてくる左馬刻を帰らせないと、このままじゃ全部好きだとバレてしまいそうで危うい。その辺りについては触れないでいてほしいのに、俺の髪を梳いてくる指先の感触が堪らない。正直きゅんとする。もうやだ、こいつ。かっこよすぎる。


惚けるな危険


2021/07/02 12:03
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