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#1 - 左銃



「じゅーとぉ。お前、付き合ってる男とかいたのかよ」
「付き合ってた奴はいたが暴力的でな。仕事に支障が出るから別れたよ」
「……へぇ。ソイツの住所は?」
「結構だ」
「まあ引っ越してるかもしれねぇもんな。名前だけで良いぜ」
「俺の話ちっとも聞いてねぇだろ」
 ピロートークとでも言うのか、左馬刻は銃兎に対してまでも悋気のような気色を見せてくれる。こりゃヤクザの若頭ってのを抜きにしても女にモテるだろうな、なんてストンと納得してしまうほどだ。左馬刻がベッドで女を抱くのを目の当たりにしたことは勿論ないが、きっと優しく抱くんだろうと思う。
 銃兎が住所にしろ名前にしろ詳細を答えないと察したのか、左馬刻はフンと不満げに鼻を鳴らした。そういや、コイツの父親も暴力的な男だったと聞いたな──と思い出したが、その言葉を口にするのは差し控えておいた。二人でシャワーを浴びた後でソープの甘い匂いまでしている今したい話じゃない。
「なあ銃兎……言ってもいいか」
「……聞かないでおく。代わりに、煙草と……その…」
「左馬刻サマぁ、次はいつ私を抱いてくれるのぉ?ってか」
「ええ。表現がちょっと違いますけど、否定はしませんよ」
「ウサちゃんはそればっかりだな。年中発情期かよ」
「ふふ、ウサギですからね」
 でも発情する相手くらいは選んでるつもりだよ、左馬刻。繰り出す勇気の出ない言葉は言わないに限る。格好がつかなくなるだろう。そこはラップバトルと同じだ。心の中に転がしておく。
 今くらいは、まるで左馬刻に好かれているようだと勘違いさせてほしかった。二人で会っているときの左馬刻は何かを堪えている顔をすることが多くなったと、気づいてはいるのだけれど。
「今日は泊まってくか?」
「おう。煙草切れてんなら俺様の吸っていいぜ」
「親切な王様だな。……じゃあ遠慮なくもらう。俺は先に寝てるからな」
「ん。おやすみ」
 チュッと、ひたいに軽いキス。またこんな優しいことばっかりしやがって俺は女じゃねぇんだぞ。それなのに、嬉しいとか、ほんとに終わってやがる。さっきぐちゃぐちゃに抱き合ってた時より、よっぽど切なくて身のやり場に困った。これは逃げるに限る。情けない顔を見られる前に寝室にとって返して一服しようと決めた銃兎は、左馬刻が「クソウサギが、お前やっぱりなんか勘違いしてやがんだろ」なんて呟く声を聞くことはなかった。が、逃すまいと今から追いかけるので心配は無用である。


革命前夜のこと


2021/02/02 11:32
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