「七海の夢が見たいなぁ」

ぽつりと呟いた声に、名前のワイシャツのボタンを外していた五条の手が止まった。名前が顔を上げると、サングラスの向こうの瞳には呆れたような色が浮かんでいる。

「それ、僕に言ってんの?」
「自分の見る夢くらい選べればいいのに」
「オイ無視すんな」
「七海、死んでから一度も私の夢に出てきてくれない……」

終いには大きな溜息を吐いてうなだれた後輩に、五条は外してしまったワイシャツのボタンをまた掛け直してしまおうか迷った。開いたシャツの合間から、クリーム色のキャミソールとそれに透けるピンク色のブラジャーが見えている。

「こういうことしてるから見れない、とは思わないわけ?」
「何で?七海はただの同期なのに」
「……七海って僕のこと嫌いじゃん」
「別に嫌ってませんよ。得意じゃないだけで」

だってオマエ七海のこと好きじゃん、という言葉は喉につっかえて、代わりに出た自虐的な内容に名前がフォローともいえないフォローをするから五条は少し笑った。この子はさも自分のことのように七海のことを話す。とても大切にしていたんだな、と思う。そういうところが、何だか無性に可愛いなぁと、あるとき五条は思ってしまったのだった。
五条が頭を撫でれば、名前は少し嫌そうな顔をしたが黙っていた。そんなところも、先日死んだばかりの彼女の同期に少し似ている気がした。この子もいずれ死ぬんだろう。ぽっかりと心に浮かんだ確信が、妙に悲しくて、唇を寄せると名前の体が小さく震える。「……わたしは、五条さんのこと、好きですよ」消え入るような声が愛しかった。五条は開いたシャツに手を忍ばせながら、名前は死んだら毎晩僕の夢に出るんだろうなぁと思って、それはとても辛いだろうなぁと考えて、「七海はオマエのこと大事にしてるよ」と笑ったら、名前はまた心底嫌そうな顔で黙り込んだ。


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