ただ暗い



私と伏黒と野薔薇の三人で、伊地知さんの車に乗って任務に向かった。
帰りの車に乗っていたのは私と伏黒の二人だけだった。野薔薇はいくら電話してもメッセージを送っても連絡がつかず、気がつけば私たちは六時間も辺りを探し回っていたが、どうしたって、彼女の姿を見つけることはできなかった。
呪霊を祓い終わったとはいえ、陰湿な空気を纏った廃校の跡地と、荒れ果てて森になっている広大な敷地をあてもなく探し回った。手足が冷えきって感覚が無くなりかけた頃、ポケットのスマホが鳴って、わずかな希望を持ちながら耳にあてたスマホから聞こえたのは伊地知さんの「戻ってきてください」という静かな声だった。

車に戻れば、後部座席に伏黒が座っていた。目が合ったが互いに何も言わなかった。車が発進したので窓の外に目を向ける。もうすぐ夜が明ける時間だった。伏黒の向こうに野薔薇が座っていたらきっと「私は寝るわ」と言ってこちらの返事も聞かずに目をつむるのだろうなと思った。
隣を見れば、伏黒は黙って下を向いていた。名前を呼んでも「ん」と返事が返ってくるだけだった。抱きしめてもいいか、と自分でも聞き取れるか危ういくらい掠れた声で尋ねたら彼が小さく頷いたから、伏黒の黒い制服に腕を伸ばしてぎゅっとその身体を抱きしめた。指先が触れた制服は冷たかったが、腕の中にある彼の身体はたしかに温かくて、胸の奥が掴まれるような思いがした。

「のばらが」
「ああ」
「嫌だよ」
「ああ」
「伏黒はいなくならないでね」
「ああ、いなくならない」
「絶対だからね」
「ああ、絶対いなくならない」

私が言うことをおうむ返しする伏黒の言葉は空っぽだったが、彼の腕が私の背中に回ってぎゅっと抱きしめ返されたらさっきより身体が温かくなって安堵した。口約束だとしても嬉しかった。伏黒の肩越しに見える後部座席の向こう側は、いつまで経っても空っぽだった。


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