「これ、先に渡しちゃうね」
カセットコンロで夕飯の鍋を煮立たせている間、彼女はそそくさと自室から持ってきた紙袋を渡した。
「はいどうぞ」
「……ああ。ありがとうございます」
差し出されたそれを受け取る七海はいつもと変わらない。澄ました顔で、そういえば今日バレンタインでしたね、なんて平然と言っている。その様子に彼女はふむ、と考え込んだ。
「どうかしましたか?」
「んー、や、嬉しくないのかなって」
「……はい?」
「私からのチョコ、嬉しくない?」
「え……いや、嬉しいですけど」
「本当に?」
「本当です」
「ホントのホントに?」
「……何なんですか一体」
アナタから貰うものは何だって嬉しいですよ。言ってから、向かいでニコニコ満面の笑みを浮かべている彼女に、本心とはいえ自分は今言わされたのだと悟った七海は苦い顔でガチャンとカセットコンロの火を止めた。
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