握りしめていた手が、僅かに動いた。
私はハッとして顔を上げる。視線の先、病院のベッドの上に横たわるその人は、小さく瞼を震わせるとようやくその目を開けた。

「よかった」

そう言って、肺がぺしゃんこに潰れるくらい深いため息を吐く。七海はそんな私の様子を見て、少し黙った後、真っ白な天井に視線を移してから約数十時間ぶりに喉を震わせた。

「致命傷ではなかったでしょう」
「……丸一日目を覚まさなかったやつが何言ってんの」

私が駆けつけた時にはすでに意識が無かった。血の気が失せた白い顔に、致命傷ではありません、なんて隣で説明する補助監督の言葉が頭の中をすり抜けていく。まるで自分の心臓にひたひたと冷たい水が流れ込むようだった。それはいつの間にか湖ほどの大きさになって、その冷たく独りぼっちな場所で、私はただ何もできずにうずくまることしかできないのだった。
あなたが大切になるたびに、私は勝手に心を痛めて自家中毒を起こすのだ。彼が死んでしまったらどうなるのだろう、きっと、あの湖は広く果てしない海になって、もう二度とここへ戻ってくることはできないのだろう。


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