日が落ちて、少しは涼しくなったかと思い窓を開ければ、生温い風とともにちいさな破裂音が数回、遠くの空で響くのが聞こえた。

「ここから見えますか」

後ろから掛けられた声に、私はまだ薄明るい街並みを見下ろしながら「見えないなぁ」と応えた。音の大きさからしてそう遠くない場所から打ち上げられたことは分かるのだが、如何せん、このアパートの周囲には視界を遮る高層ビルが多く建ち並んでいる。

「もうそんな季節なんだね」

窓枠に手をかけて、ひゅるひゅると空に昇る音を聞きながら目を閉じた。瞼の裏には、いつか見た花火の光がストロボみたいに点滅している。鼻につく火薬の煙たさも、帰り道に屋台で買ったりんご飴の甘ったるさももう思い出せないけれど、この空気を震わす音を聞くとなぜだか心臓がばくばく落ち着かないのは、何年経っても変わらないのだから不思議なものだと思う。

「見えないものをいつまで眺めてるんですか」
「エア花火だよ。音は聞こえるし」
「……わりと近いのに、本当に見えませんね」

肩に何か触れて、目を開ければすぐ隣に七海が立っていた。少し出てみますか?とこちらへ向けられた視線に、私はううんと首を横に振る。

「きっともう終わるだろうから」
「そうですか」
「花火大会ってわけじゃなさそうだよね。そういや今年っていつなんだろ」
「ああ、昨日ポスター見かけましたよ」

詳しく見てませんが、調べれば出てくるでしょう。そう言って、くるりと背を向けた七海はスマホを取りにいったのだろうが、その足取りがやけに軽くて私は少し笑ってしまった。
いつの間にか、夜空に響いていた音は止んでいた。私は窓を閉めてカーテンを引くと、同じく軽い足取りで彼の元へと向かうのだった。


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