悠仁がボロボロと泣いていた。まるで雨にでも打たれたようにその頬は濡れている。いつもよりずいぶん小さく見える背中を、私はできるだけ優しくさすりながら「どうしたの」と聞いた。
「俺、もう、駄目なんだ」
鼻水と嗚咽混じりのしゃがれた声で、悠仁は言った。色素の薄い睫毛が涙で濡れそぼっている。私はその震える肩に手を添えてから、できるだけ穏やかな声で「どうして」と尋ねた。
「アイツを……助けられなかった。すぐ近くにいたのに、目が……っ合ったのに…」
ひっく、と情けない嗚咽の声を合図に、また悠仁の大きな瞳からはボロボロと涙が落ちていった。ああ、この人はこんなに弱い人だったろうか。私が見てきた悠仁は誰よりも強くて、前向きで、優しくて……こうと決めたらそれをやり抜く信念がある人で。そしてその信念を、貫き通すことのできる力がある人で。
「……ごめんねぇ悠仁」
ぽろりと溢れた言葉が、彼の耳に届くことはもうない。私は死んじゃったから。よりにもよって、悠仁の目の前で死んでしまった。最期は何も言えず、ただきっと縋るような眼差しだけを残して。
悠仁は別に強くなんてなかった。ただ強くあってほしいと私が願っていただけだった。まるで御伽噺みたいに残酷な運命を背負った彼が、それでも真っ直ぐに走り続ける姿を見て勝手に救われていた。悠仁だって私と同じただの子供なのに。自分の死に泣きじゃくる彼の姿を見て初めて気づくなんて、とんだ皮肉だった。
「ごめん……助けられなくて、ごめんなぁ……」
蚊の鳴くような声で繰り返し謝る悠仁の背中を、ぎゅっと強く抱きしめる。今ならちゃんと彼を慰められる気がするのに、本当の意味で寄り添うことができる気がするのに。私は私のまま、彼に勝手に救われたり失望したりせず、ただ手を握って寄り添って、涙が枯れるまで待つことができると思うのに。
「気づくの、遅かったなぁ」
遠くで悠仁を呼ぶ声がする。私はそっと身体を離して、たった一言別れの言葉を呟くと、消えた。