「七海って、キス好きなの?」
「……は?」

ぴた、と動きが止まって目の前が明るくなる。瞼を開ければ、何だか間が悪いと言いたげな、気まずそうな表情を浮かべた七海の顔があった。二人の間に流れた何ともいえない空気に、思わずふきだしそうになるのをなんとか堪える。

「……なんかかわいい」
「は?」
「あはは、二回目」
「……」
「この状況で睨まれても怖くないし」

笑えば、七海は小さく息を吐いて体を離した。そのままソファーの背もたれにぐったりと背中を預けて目を閉じた彼に、私はわざとらしく「続きしないの?」と甘えた声を出してみる。薄目を開けてチラリとこちらを見た七海は、数秒の間を置いて、またはあと小さな溜息を吐いた。

「アナタがよければ、しますけど」
「それはもちろん」
「……嫌というわけではないんですよね?」
「嫌?ああキスのこと?違う違う。ただ、七海はよくキスしてくるから、好きなのかなぁと思って」
「……」
「聞いただけ」
「……男なら好きでしょう。誰だって」

体を起こした七海の手が、そっと私の首に触れる。親指の腹で耳を撫でるのが、きっと彼の合図だということに何度目かの行為で気づいたけれど、肝心の彼自身はそのことに果たして気づいているのやら。なんせ今の私の言葉にさえ、意識なんてしたことありませんでしたというような顔をしていたし。
目を閉じれば唇が塞がれた。乾燥して少しかさついた、薄い唇。何度か重ねられて、舌が入ってくると、私の方も癖なのか、彼の腕を縋るように掴んでしまう。きゅ、とシャツが皺になるくらい掴む私の手を、七海は決まって反対側の手で優しくほどいて、その長い指を絡めるのだった。


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