ふっと黒い影が目の前に現れた。その刹那、私が対峙していた呪霊は破裂して跡形もなく消え去る。…ああ、この怖いくらいに理不尽で非常識な術式は、

「……ごじょーさん」
「助けに来たよー」

気がつくと、私は五条さんの両腕にヒョイと抱き上げられていた。顔を上げればかなりの至近距離で視線がかち合う。久しぶりに見た五条さんの透き通るような瞳は、私の腹部にあいた穴をチラリと確認して少し揺れた。その傷は内蔵まで届いているのではというくらい深く、慰め程度に押さえていた私の両手は止まらない出血で真っ赤に染まっていた。

「…ごめん、遅くなった」
「いえ…げほっ……すみません…」
「こっちで等級を見誤ったんだ。名前のせいじゃない」
「…わたし、死ぬんでしょうか…」
「死なないようにこれから超特急で戻るから」

だから踏ん張れよ。五条さんの低い声が、霞みがかってきた意識の内に力強く響く。…でも、彼の手が傷を押さえる私の手に重ねられたとき、そのあまりの温かさにああ自分はもう駄目かもしれないと静かに思った。私の手も身体も、まるで体温を忘れてしまったかのように冷たくなっていたのだ。それは、私を抱きかかえている五条さんが一番理解しているだろう事実だった。

「硝子には、酒飲まないよう釘刺してきたからさ。帰ったらすぐに治療してもらおう」
「…ねえごじょーさん」
「ん?」
「もし、わたしが死んだら」
「…もう喋るな。傷が開く」
「わたしが死んだら……七海が、一人になっちゃう…」
「……そうだよ。だからお前は死んじゃダメ」
「……」
「後で七海呼んどくよ」
「…はは……それぜったい死ねないやつだ」
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