「はぁ……………」

ゴン、と電車が揺れた反動で後頭部をガラス窓にぶつけたが、痛がる元気もない。今日の任務は三年の先輩のサポートで、四級程度のザコ呪霊をひたすら祓うというものだったが、その数が多いのなんの……オマケに補助監督は先輩を次の任務先へ送り届けなければならず、申し訳なさそうな顔をしながらも私を近くの駅に降ろし容赦なく走り去っていった。それから約二時間、数回の乗り継ぎを経て、ようやく次が高専の最寄り駅である。

「……」

一言で言うと疲れた。疲れ切った。ふらふらとおぼつかない足取りでホームを抜け、階段を上り、改札を出る。それなりに遅い時間のせいで駅構内の人はまばらだった。……ここからまた高専まで歩かなきゃいけないのか。…ああダメだ、疲れすぎて泣けてきた……。
苗字。ふいに聞き慣れた声が聞こえて、歩き出そうとした足を止めた。振り返れば、そこにはここにいるはずのない同期で恋人の彼が立っている。私はしばらく黙ってその顔を見上げてから、「…なんでいるの?」と掠れた声で聞いた。

「どうしてこの電車で帰ってくるのが分かったのか、という意味なら、アナタの補助監督が高専に連絡してきたのを聞いたからです」
「……なるほど」
「なぜ頼んでもいないのに迎えに来たのか、という意味なら……アナタのことが心配だったからです」
「へ、」

予想外の返答に、ぽかんと呆ける間もなく手を掴まれる。「早く帰りますよ」そう言って、私の手を引いたまま歩き出した七海に私はあわてて並んだ。ガッチリ握られた手と、もうすっかり見慣れた横顔を見比べながら、先程彼から言われた言葉を思い出す。「……七海って、ほんと優しいよねぇ」その手を握り返しながら呟いたら、七海はちらりと私の方を見てから「アナタにだけですよ」と言って呆れた顔をした。

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