「……んん?」

隣の自販機で、ガコンと落ちてきたペットボトルを取り出した同期を、私はまじまじと見つめた。赤いキャップを回して口をつけようとしたものの、私からの視線に耐えかねたらしい七海はいつもの顰めっ面で「何ですか?」と聞いてくる。

「いや、何というか………何ソレ」
「は?」
「それ!七海が持ってるの!」
「……コーラ」
「七海ってコーラ飲むの!?」
「私のこと何だと思ってるんですか」

飲みますよコーラくらい。私の反応が気に食わなかったのか、不機嫌そうに言った彼は今度こそペットボトルに口をつけてごくごくとそれを飲み始めた。私はまたまじまじと見つめてしまいそうになるのをぐっと堪えて、目の前の自販機のボタンを押す。短い電子音の後にガコンと勢いよく落ちてきたのは何の変哲もないスポーツドリンクだ。……私も七海も、つい先程まで夜蛾先生の呪骸相手に散々戦わされていたのである。この喉がカラッカラの状況で、彼が甘い炭酸飲料を選んだことも、私が意外だなぁと驚いた理由のうちの一つだった。
自販機からペットボトルを取り出して、七海の方を見た。ぼんやりと中庭の方を向いていた彼が持つコーラのペットボトルには、もう三分の一程しか中身が残っていない。

「七海って、甘いもの好きなの?」

冷えたスポーツドリンクで喉を潤してから、何気なく聞いた。こちらに視線を戻した彼は、少しの間を置いてから「嫌いではないです」と答える。どうやら今日は雑談に付き合ってくれるらしい。普段は必要最低限しか口を開かない七海だったが、あれだけみっちり扱かれたあとで、さすがに少しは気分転換がしたいと考えたようだった。

「ふーん、そうなんだ。好きな食べ物は?」
「……パンは好きです」
「へぇ!どんなの?」
「カスクートとか…」
「え?何それ聞いたことない」
「でしょうね」

でしょうね、の返しがあまりにも早くてちょっと腹が立つ。そんなお洒落な名前のパン、私みたいな庶民くさい人間は当然知らないでしょうね、みたいな……いや本当に知らなかったけど。カスクート?どこの小洒落たパン屋に行けばあるんだそんなもの。
私の沈黙の意味を察したのか、七海は呆れた顔で「別に大したものじゃありませんよ」と言った。コンビニでも買えますし。続いた彼の言葉に私が「コンビニ!?」と大きな声を出すと、目の前の同期はやや気圧された様子ではいと頷く。

「近くのコンビニにも置いてますよ」
「そうなんだ……結構行ってるのに気付かなかった」
「別に、興味がなければ知らなくて当然だと…」
「今度一緒に行ってもいい?」
「え」

私の言葉に、七海は一瞬固まってから「……いいですけど」と本当にいいのか聞き返したくなるような渋い顔で言った。面倒だ、という心の声が今にも聞こえてきそうである。
でもこんな約束をするのは初めてで、七海が、こんなくだらない約束をしてくれたことが何だか無性に嬉しくて。絶対だからね、と念を押す私の心は、ついさっきまでの疲れも忘れてぽかぽかと浮かれていたのだった。

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