「あ、教科書忘れた」

口に出してから隣の席を見る。視線の先、次の時間の教科書とノートを机から取り出していた七海は、それらを几帳面に揃えて机の上に置いた。私の言葉には驚くほど無反応である。「教科書、忘れちゃった」本日二度目の主張。今度は七海の方を向いて言えば、さすがの彼もチラリとこちらを見て深いため息を吐いた。

「……それを私に言われても」
「七海、教科書見せてくれない?」
「寮に戻ればいいでしょう。近いんですから」
「えー……」

呪術高専に入学してからかれこれ二週間。この無愛想なクラスメイトとも少しは打ち解けたつもりでいたが、まだまだ心の距離は遠いらしい。無慈悲に教室のドアを指して言う七海に、私は不満げな声を漏らしながらも、それ以上強請ることもできずに黙り込む。だってそもそも悪いのは教科書を忘れた私だし。七海が教科書を見せてくれなくたって、それは自業自得なんだから恨むのはお門違いというやつだ。……まあ正直、今この瞬間はケチで頑固で気の利かない堅物めとは思っているけれども。
しょうがない、と立ち上がりかけたところでチャイムが鳴った。黒板の上の時計はまだ授業開始の五分前を指している。あれ?と首を傾げていれば、七海の向こう側で灰原が「この時計、五分遅れてるよ!」と携帯電話の画面を確認しながら元気よく言った。

「な、七海〜〜…」
「……机はアナタが動かしてくださいね」
「!うん、ありがとう」
「七海、最初からそう言えばよかったのに!」
「そう言うなら灰原が見せればいいだろ…」
「僕は席反対側だから!」

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