[From]夏油傑
[title]無題
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ただいま。
先に帰ったよ。
名前はまだか
かりそう?


というメールを確認したのは最後の任務を終えた日の夜だった。濡れた髪をタオルで拭うのをやめ、ベッドに腰掛けすぐに傑くんに電話をかける。

「もしもし」
「傑くん?今大丈夫?」
「ああ。大丈夫だよ」
「任務お疲れ様!」
「ありがとう。名前もお疲れ様」
「ありがとう!」
「そっちはまだまだかかりそうか?」
「ううん!わたしね、明日の午後には帰れるよ!」
「本当か?じゃあ明日の夕飯はカレーだな」
「ふふ、うん」

覚えていてくれたんだ…と嬉しくなれば自然と笑みがこぼれた。

「何時頃着く?」
「わかんない……聞いてくる!」

すぐに立ち上がれば、見えているかのように電話の向こうの傑くんに止められた。

「ああ。いいよ。急がなくて。わかったら教えてくれれば良いから」
「そう?わかった!」
「じゃあおやすみ。気をつけて帰ってきて」
「うん。帰るまでが任務だからね。気をつけるよ」

遠足ではないけれど、何があるかわからないのがこの世界だ。真面目な顔で力強く告げるが、傑くんは冗談だと思ったのか笑う。

「フフ、そうだね。おやすみ」
「おやすみなさい!」

電話を切って携帯を胸に抱く。明日!とうとう明日傑くんに会える!二週間、長かったな…としみじみ思いながらベッドの上に寝転べば、すぐに瞼が重くなった。髪の毛まだ乾かしてない、荷造りもおわってない、傑くんにもうひとつお土産を買って帰りたい、おいしいお菓子を調べて、それで、補助監督さんに、帰りの飛行機の………。

目が覚めたら朝だった。寝癖だらけの髪の毛を見て全てを諦め、シャワーを浴びる。朝食には間に合う。その帰りに補助監督さんのところに寄って傑くんに連絡して…と寮に戻るまでの予定をたてていく。はやく帰りたいな、と思えば、傑くんの顔が思い浮かんで自然と笑みが浮かんだ。

飛行機に乗る前に傑くんに15時過ぎには高専に着く事を教えるメールを送った。待ってるよ、とだけ返ってきたメールを携帯ごと抱きしめる。繁忙期も悪くないかもしれない!と思ったが、やはりない方が良いと思った。普通に毎日会える方が良い。

飛行場から車に乗れば、うとうとしている間に高専の門が見えてきた。期待で胸が膨らむ。会ったらなんて言おう。ただいま?元気だった?会いたかった?そわそわと窓の外を見ていれば、傑くんの顔が見えて驚いた。

「とっとと止めてください!!!!」

急ブレーキ。慌ててドアを開けて来た道を戻れば、傑くんもこちらへ駆けてきた。

「傑くん…!」
「おかえり」

笑顔でそう告げる傑くんを見たら胸がいっぱいになって言葉がでなかった。ぎゅ、と自身の両手を握る。

「すれ違いにならなくてよかった。なんだか落ち着かなくて」
「わ、わたしも!!」

声を張り上げれば傑くんが笑った。戻ってきた車に傑くんが「すみません。先行ってください」と声を掛ける。わたしも慌ててそちらを向いて頭を下げた。すぐに見えなくなった車を見つめ続けていれば、傑くんがわたしの左手を握る。

「ごめん。疲れてるよね。歩ける?」

無言で力強く数度頷けば、傑くんが良かったと笑った。そしてわたしの手を引いて歩き出す。

「怪我はしていない?」
「うん。傑くんは?」
「大丈夫だよ」
「疲れてない?」
「昨日ぐっすり眠ったから。名前は?」
「ぐっすり眠った」
「フフ、それは良かった。カレーは今日で良い?明日にする?」
「今日が良い!」
「じゃあ私の部屋で作ろうか」
「うん!」

傑くんが目を細めて微笑む。すぐに前を向いた傑くんの横顔を、2週間分見たくてじっと見つめ続けた。

「名前」

傑くんが前を向いたままわたしの名前を優しく呼ぶ。

「夏がおわってしまう前に一度デートしよう」

傑くんはこちらを見ないが、わたしの手をぎゅ、とちょっとだけ強く握った。

「………アイス一緒に食べたい」

驚いた顔をした傑くんがすぐにこちらを見た。そしてすぐにはにかむ。

「そうだった。去年、約束したよね」
「うん……」

これも覚えててくれた…とわたしは嬉しくなって、また胸がいっぱいになって、泣きそうになって、彼の手を強く握った。

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