「あ、教科書忘れちゃった」

という言葉は完全なる独り言であり小さなものだった。
そんな些細な嘆きさえも隣の夏油くんは拾ってくれる。

「じゃあ一緒に見ようか」

夏油くんの言葉に彼の顔を見上げる。彼の視線は机の上へと落ちていた。その視線を追いわたしも彼の机へと視線をやれば、それはこちらへ音をたてて近づいた。すぐに机と机の境界線に教科書が置かれる。

「一応言っておくけど、落書きは全部悟だから」

と夏油くんが笑えばうとうとと頭を揺らしていた五条くんの体がビクリと大きく揺れた。

「傑、今俺の事呼んだ?!」
「呼んでいない。でも授業がはじまるから起きろ」

五条くんが大きく伸びをしながら欠伸をひとつ。そのまま机に上半身を倒して「………サボろっかな……」とぼやいた。夏油くんの長い足が彼の椅子の足を軽く蹴る。「寝てて良いから居ろ」

お礼を言うタイミングを完全に逃してしまった。ぼう…っと夏油くんの横顔を見つめ続けていれば、視線に気付いたのか彼がこちらを見る。「夏油くん、ありがとう」と今更だがお礼を述べれば、彼は静かに微笑んだ。

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