「な、なみは」
「はい?」
「んっ……ぅ、ちょっとまって、あ」
「……話なら後で聞きますから」

集中してください。そう耳元で囁かれた声が擽ったくて、焦れったくて、身体の奥のいちばん深いところがきゅっと疼く。彼の唇が首筋をなぞりながら、すでに繋がっている部分は弱いところばかり抉ってくるのだからたまらずに腰が引けた。それを掴まれればまた奥まで突き上げられて、開きっぱなしの唇からは意味をなさない声ばかりが溢れる。
身体が揺れるたびに、頭の中が真っ白になる。瞼を閉じればぽろりと生理的な涙がこぼれた。ななみ、すき、だいすき。私の口からようやく出た言葉はたどたどしくて、幼稚で、まるで小さな子供みたいだ。彼にそれが聞こえたのかは分からなかったけれど、身体を屈めて私の額に口付けるその仕草は、まるで幼い子供をあやすように優しかった。



使用済みコンドームを手際よく処理した七海は、ベットに寝転んで天井を見上げていた私の隣にぼすりと沈んだ。枕の上に広がる彼の髪は、整髪料をつけていないと猫の体毛のように細くて柔らかそうで、触れたら気持ちがよさそうだ。少し乱れたそれを見つめながら、ぼんやりとそんなことを考える。

「ねぇ」
「なんです」
「七海は、子供欲しいと思う?」
「……さっき言いかけていたのはそれですか」

枕に突っ伏していた顔がこちらを向いた。額にかかる前髪が、彼をいつもよりずっと幼く見せていてかわいいと思う。加えて気怠いのか眠いのか、普段に比べてスローペースな話し方が、いつもの七海の険しさをすっかり無くしてしまっていて面白かった。
彼の問いに頷けば、七海は少し考えるように黙って、それからモソモソと仰向けに寝返りを打つ。正直分かりません。息を吐くように呟かれた彼の言葉が、夜も更けた部屋にしんと響いた。

「名前さんとの子供がいたら、いいなとは思いますけど」
「あっ、そう……」
「……自分で聞いておいて何驚いてるんですか」

私の間の抜けた反応に、まったく呆れたと言いたげな眼差しが向けられる。おもむろに彼の手が伸びてきて、その少し湿った手のひらがぺたぺたと私の顔を触っていった。ついさっきまでの色っぽさはどこへやら、今はただ目の前の相手の体温を確かめるような、まるで小さな子供みたいな触り方だった。

「でも、もしアナタたちに何かあれば私は耐えられないし、私がもし先に死んでアナタたちが残されると思うと、それも許せません」

メンタル弱いんですよ、私は。
小さく掠れた声は、私ではなく自分に言い聞かせているようだった。頬に添えられた七海の手に自分の手を重ねながら、彼のこういうところが好きだと思う。変に素直で、変に意地っ張りなところ。「寂しい」と言えるのに「そばにいてほしい」とは言えないような、不器用ではないのにたまに生きるのがひどく下手くそになるような、少しちぐはぐで、完璧ではないところ。
私は、こみ上げた笑いを堪えきれずにふっと笑った。七海が打たれ弱いことなんて知ってるよ。そう言えば、目の前の彼はその言葉をどう受け取ったのか、バツが悪そうな顔で私の方を見る。

「……そうですか」
「でもそれは優しいってことだもん。そーいうとこが好き」
「……」
「ん?」
「……アナタに似た子なら、さぞかわいいでしょうね」

ぽつりと、七海の口から溢れた言葉にぱちぱちと瞬きをする。それからだんだんとその言葉の意味が分かって、また頬が緩んだ。浮かんだえくぼをなぞるように触れてくる彼の指がくすぐったい。いつの間にか私は声を上げて笑っていて、目の前の私の大好きな人も、まったく呆れるくらい優しい笑みを浮かべていた。

「それ、私がかわいいってこと?」
「ええそうですよ。かわいくてしょうがないです」
「……七海酔ってる?」
「シラフに決まってるでしょ」
「……」
「アナタの方こそ酔ってるんじゃないですか?顔、赤いですよ」

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